2009 年 1 巻 2 号 p. 101-114
本稿は,2000年代に入って日本の大手総合スーパー(GMS)各社が導入した,転勤範囲を基準に従業員を区分する新人事制度が,雇用区分による処遇にいかなる変化をもたらしたかを分析し,そのような制度変化を促した背景を究明した。本稿の分析によると,新制度によって多くの女性正社員がパートタイマーと同じ雇用区分に転換しており,同じ職務をより低い処遇の従業員が遂行するようになった。また,制度変化の背景には,女性正社員が担っている家族的責任が,企業にとってコストや従業員統合の面で大きな負担になってきた事情がある。性別分業が根強い日本社会の現状では,転勤範囲を働き方の基準にする人事制度は,働き方のジェンダー化を一層進展させ,雇用形態の裏面に貼りついていたジェンダーの身分性を強化する結果を招かざるを得ず,異なる雇用区分間の均衡処遇を実現するには限界があるといえる。