2016 年 8 巻 1 号 p. 98-110
従来,日本の企業およびその経営は閉鎖的であるといわれてきた。近年,「外圧」から社会への考慮が求められており,日本企業はCSRを展開している。日本企業のCSR経営は等しく「社会」(=ステイクホルダー)を考慮するものになりえているだろうか。今日のCSRの震源は日本の国外にある。市場原理主義のグローバルな浸透により,社会的な負の影響があらわになり,国際機構までもが企業の行動原理に対する基準を示さなければならなくなってきた。しかし,日本のCSRの実相をみると,経済,環境に偏った歪なステイクホルダーへの考慮になっている。CSRは市場原理主義に規定されているかのようである。社会への考慮は依然として日本企業の課題であるが,改善の道がないわけではない。それは,労使関係を活かしたCSRの実践にあると考えられる。そこで,近年における個別企業の労使および国内産業別労働組合,国際産業別労働組合との間で「グローバル枠組み協定」を締結する企業行動に着目し,これが社会への考慮の改善に向かう一つのパターンになりえることを提示する。