抄録
日本の大規模金融機関のシステム開発においては,監督官庁の規制やステークホルダー(顧客)のリスク管理レベルが極めて高い.一方で,業界動向としてはシステム運営費にかけるコストは縮小傾向にある.このような背景においては,品質管理にかかる顧客の要求レベルとコストの統合的な管理が重要となる.品質とコストのバランスを維持するための手法としては,品質計画段階における費用便益分析がPMBOKガイドによって推奨されている.しかし実際のシステム開発プロジェクトにおいては,品質計画の段階で品質とコストについて費用便益分析を行うことが困難な場合が多い.この課題を解決する手法として,プロジェクト統合マネジメントが非常に有効となる.プロジェクト統合マネジメントを行うことによって,顧客が求める品質水準,およびそれを実現するための品質活動の内容が明確になり,品質コストの見積もりが精緻に行えるようになるためである.また,プロジェクトの品質コストは,プロジェクト統合マネジメントを継続して行うことで意図的に減少させることもできる.