社会情報学
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原著論文
リスク概念の構造:現象学の視座からリスクを理解する
甘利 康文
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キーワード: リスク, 概念, 汎化, 現象学, 構造
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2024 年 12 巻 3 号 p. 1-18

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抄録

リスクの概念に関しては, 先行研究において多くの検討がなされているものの, 現状, 広く一般的に受け入れられているリスクの概念や定義は存在しないとされている。リスクは概念であり自然界に存在するものではないため, 一般的な科学の考え方では, リスクの本質, すなわち「リスクとは何か」は追究しきれない。このことは, 経営実務上の課題としてリスクを扱うリスクマネジメントや, 工学的にリスクを扱おうとするリスク工学のありようにも影響を及ぼしている。この問題に対する解決の糸口を示すために, 本検討では, 現象学, およびそれを基盤とする科学の理路によって, 分野や種類を特定しない形で, 人が「リスクがあると感じる」場合に共通する「そう感じさせる構造」の抽象を試みた。リスクの構造は, 意識に「(1)周りから影響を受けたくないこれからのストーリー」があり, そして「(2)インシデントによって, そのストーリーの進み行きが影響を受けて, 想定通りに進まなくなるかもしれない」という観念(臆見)があることに集約される。前者のストーリーが「リスクが存在するための前提」, 後者の観念が, 私たちが, 一般に「リスクと呼んでいるものの本質」である。この新たな視座は, リスクに関係する学術, そしてリスクマネジメントやリスクコミュニケーションなどの実務におけるパラダイムシフトのきっかけとなり得る。

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