社会情報学
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原著論文
  • 甘利 康文
    2024 年 12 巻 3 号 p. 1-18
    発行日: 2024/03/01
    公開日: 2024/04/09
    ジャーナル フリー

    リスクの概念に関しては, 先行研究において多くの検討がなされているものの, 現状, 広く一般的に受け入れられているリスクの概念や定義は存在しないとされている。リスクは概念であり自然界に存在するものではないため, 一般的な科学の考え方では, リスクの本質, すなわち「リスクとは何か」は追究しきれない。このことは, 経営実務上の課題としてリスクを扱うリスクマネジメントや, 工学的にリスクを扱おうとするリスク工学のありようにも影響を及ぼしている。この問題に対する解決の糸口を示すために, 本検討では, 現象学, およびそれを基盤とする科学の理路によって, 分野や種類を特定しない形で, 人が「リスクがあると感じる」場合に共通する「そう感じさせる構造」の抽象を試みた。リスクの構造は, 意識に「(1)周りから影響を受けたくないこれからのストーリー」があり, そして「(2)インシデントによって, そのストーリーの進み行きが影響を受けて, 想定通りに進まなくなるかもしれない」という観念(臆見)があることに集約される。前者のストーリーが「リスクが存在するための前提」, 後者の観念が, 私たちが, 一般に「リスクと呼んでいるものの本質」である。この新たな視座は, リスクに関係する学術, そしてリスクマネジメントやリスクコミュニケーションなどの実務におけるパラダイムシフトのきっかけとなり得る。

  • 記虎 優子
    2024 年 12 巻 3 号 p. 19-35
    発行日: 2024/03/01
    公開日: 2024/04/09
    ジャーナル フリー

    証券市場の効率性を確保するには, 決算発表を早期に実施するだけでなく, 決算発表日の集中を回避して, その分散が図られることが必要である。そこで, 本稿では, 決算発表日の分散に寄与する内部統制システムに係る企業特性を実証的に解明している。

    まず, 企業の情報開示を分析視点として位置付けて, 計量テキスト分析を用いて, 会社法に基づく内部統制システム構築の基本方針についての具体的な開示内容を分析している。これにより, 内部統制システムの構築に対する企業の目に見えない認知を可視化して, 内部統制システムの構築に際して企業が財務報告を重視しているのかどうかを識別している。そして, 企業の財務報告志向が表象されている言及が基本方針の中で「いつから」出現するようになったのかに着目することで, 他社の基本方針についての開示動向などの影響を受け得たことを明示的に考慮して, 企業の財務報告志向を定量化している。また, 複数の異なる定量化の方法を用いることで, 企業の財務報告志向の定量化の頑健性を確保している。

    次に, 企業の情報開示を分析対象として位置付けて, 内部統制システムの構築に際して企業が財務報告を重視していることが決算発表日の分散に寄与するのかどうかを実証的に解明している。そして, 企業が財務報告を重視しているほど, 同じ日に決算発表を行う企業がより少ない日に決算発表を行うことを示している。また, 企業が財務報告を重視しているほど, 決算発表が最も集中する日を避けて決算発表を行うことを示している。

研究
  • 芳賀 美幸
    2024 年 12 巻 3 号 p. 37-53
    発行日: 2024/03/01
    公開日: 2024/04/09
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は, 刑務所で受刑者の社会復帰支援を目的に放送されているラジオの音楽リクエスト番組における, リスナーが番組の聴取とメッセージの投稿を通じて番組に参加する意義と, DJとリスナー間のコミュニケーションの様相を明らかにすることである。名古屋刑務所豊橋刑務支所で放送されている番組「リクガメ」を対象として, 受刑者の聴取実態について質問紙調査を実施し, 受刑者とDJにインタビューを行った。結果をナラティヴ・アプローチとケア・コミュニケーションの視座から考察したところ, (1)リスナーはメッセージの投稿を通じて, 自身の生活や人生を省察し, 自己の物語を作り上げていると示された。この時, メッセージテーマとリクエスト曲が, 物語の筋立てを手助けしていた。さらに投稿者だけでなく, 聴いているだけのリスナーも, 他者の物語を自身に照らし合わせ, 自らの物語を更新する手がかりとしている可能性が示唆された。(2)DJとリスナー間のコミュニケーションは相手に対する承認が基本にあり, リスナーの語りを後押ししていた。語り手にとって自己の物語を語り, 他者に承認されることは, 自己を肯定されることの喜びや安心感を与えてくれるとともに, 犯罪や暴力の連鎖から抜け出して新たな自己を生きる手助けとなる可能性を有しているという点で, ケアにつながる可能性がある。本研究は, 社会から孤立しがちな受刑者をケアし, 包摂するメディア・コミュニケーションの可能性を示した。

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