抄録
昨今、日本では高齢化により介護サービスの需要が増加している。この需要増加に対応するためには、介護サービスの質的転換は喫緊の課題である。こうした課題に対して、福祉機器を活用した新たな介護支援手段の提案は効果的といえる。そこで、著者らは要介護者の自立支援を促す福祉機器として、ヒューマンインターフェース式のポインティングデバイス (Face-input Pointing Device: FPD) を開発した。FPDは頭部動作のみで機器制御が可能であり、制御信号には頭部姿勢角および咬筋部筋電位を利用している。しかし、加齢にともない咬合力および咬筋部筋電位が低下するためFPDの動作に影響を与える可能性がある。よって、幅広い年齢層を対象とした調査が必要である。本研究では、年齢層別によるFPDの動作信頼性を評価した。実験は10~50代の男性を対象とし、咬合能力(咬合力、咬合圧、咬合接触面積などの総合的な能力)の測定、咬筋部筋電位測およびFPDの操作試験を実施した。そして、咬合能力と咬筋部筋電位の関係より加齢の影響を分析した。また、操作試験ではタスク成功率よりFPDの動作信頼性を評価した。その結果、96.6 %の被験者が咬合力低下に該当せず、タスク成功率も90 %以上を示したため、10~50代はFPDの適応対象として妥当といえる。一方、現在の筋電計では咬筋部筋電位の低下している高齢者を対象とした場合、筋電信号とノイズの判別が困難になる可能性がある。したがって、今後は高齢者向けに筋電計のさらなるノイズ対策が必要である。