抄録
アサリ可食部におけるセレンおよび水銀分布に及ぼす煮沸処理の影響が、煮汁(貝汁)への両元素それぞれの溶出プロフィールと関連づけて検討された。煮沸処理(約90℃で5分、10分、20分、30分)の間、両レベルの変動は可食部において明確には確認できなかった。煮汁中の溶存態のセレンレベルは経時的にわずかながら増加する傾向を示した。溶存態のセレン化学種は主に有機態であった。一方、溶存態の水銀は、可食部の水銀レベルが著しく低かった事実から、検出されなかった。以上のことは,最終解毒物質としてのHg-Se複合体は微量ながらも煮沸処理によって対外排出されないことを示唆した。水産物の安全性の指標としてのアサリ可食部のSe/Hg(モル比)は、すべての煮沸処理を通して約100(≧ 1)でほぼ一定であり、可食部における水銀の安全性が煮沸処理に対して確認された。