抄録
本研究の目的は我々にとって身近な音楽であるJ-POPがどのように思い出されるのかをその構造的特徴に着目して検討することである。実験1では歌のタイトルを手がかりとした歌唱再生実験を行い、大楽節終わりで生じたエラーについて分析を行った。ある大楽節の再生が終わったあとに、本来続くべき大楽節が再生されずに別の大楽節が誤って続けられるエラーでは、大楽節の冒頭から再生が続けられることが多く、大楽節の途中から再生されることは少なかった。この結果から、J-POPの記憶はAメロやサビといった大楽節の冒頭が再生されやすく、歌の再生におけるアクセスポイントとして機能していることが示唆された。実験2ではこの点の検証を行うために、大楽節の終わりと大楽節の途中のフレーズの終わりのメロディを手がかりとし、その後に続く次の大楽節冒頭またはフレーズ冒頭の歌詞を再生する実験を行った。その結果、大楽節冒頭の歌詞はフレーズ冒頭の歌詞よりも再生されやすく、仮説は支持された。J-POPの記憶にはその構造的特徴が反映され、大楽節の冒頭が再生のアクセスポイントとして機能していると考えられる。