抄録
本研究では、経済産業省と文部科学省が共同で実施した全国の「アジア人財資金構想」の卒業・修了生に対してアンケート調査を行うとともに、山形大学大学院理工学研究科ものづくり技術経営学専攻とうほくMITRAIコースの地方在留中の修了生に対して半構造化インタビューを実施し、理工系の元留学生の地方企業への定着実態およびその要因を検討した。元理工系留学生の半数以上が地方の企業に就職したものの、地方の企業と地域社会に溶け込めず、より機会が豊富かつ利便性の高い東京へ流出している実態が明らかになった。調査結果から、その要因は、「社内交流が少ない」や「自分の特長を活かせない」、「孤独を感じる」、「元留学生向けの情報発信と地域と接点を増やして欲しい」など、会社および地域社会と元留学生との間に十分な交流・支援が足りないことであることが明らかとなった。また元留学生は自己実現意欲が高く、キャリアアップのために経験蓄積を大事にしていることが示唆された。これらを踏まえ、地方在留中の元理工系留学生を、会社適合性と地域社会適合性という2軸4分類(適合型、地域社会適合型、会社適合型、不適合型)した結果、 会社適合性と地域社会適合性の度合いが高い「適合型」と、地域社会適合性は低いが、会社適合性の度合いが高い「会社適合型」 が地方に定着している傾向が見られた。その要因は、技能の習得など企業での経験を重視しているためと思われる。今後も、元理工系留学生を地方に長く定着させるためには、彼らの適合型に合わせた、会社側の適切な支援や地域での交流促進が必要であると考えられる。