現代社会学理論研究
Online ISSN : 2434-9097
Print ISSN : 1881-7467
多文化主義と西欧ムスリム
「閉鎖性」と「開放性」のアイデンティティ論
安達 智史
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ジャーナル オープンアクセス

2018 年 12 巻 p. 103-115

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抄録

多文化主義は、世俗的な中立国家のなかで代表されない宗教や文化に公的な承認を与える一方で、そうした不公正の是正や文化的承認を通じてマイノリティの主流社会への統合を促す政治的立場である。だが、グローバル化により多様化が進展する西欧社会において、多文化主義は、多文化ではなく多分化をもたらす原理として認識されつつある。こうした批判は、文化やアイデンティティの「閉鎖性」と「開放性」を、多文化主義が十分に理論化していないことが原因である。この課題に応えるべく本稿では、閉鎖性と開放性の視点から、テイラー、ホール、ギデンズのアイデンティティ理論を検討する。その後、実際の西欧ムスリムのアイデンティティ管理や宗教との関わりをめぐる研究を参照しつつ、ギデンズの理論の有効性を述べる。最後に、アイデンティティが内部における閉鎖性を通じて外部への開放性を実現している点を描くとともに、ムスリムの信仰と民主的シティズンシップの積極的関係を説明することで、多文化主義の擁護を試みる。

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© 2018 日本社会学理論学会
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