抄録
現在、自由の理念は個人化や消費化と結びつけられて称揚される一方、寛容や共和主義といったリベラリズムの中心的価値観のブラックウォッシングともいうべき動きが加速している。自由という理念が纏わされている社会的意味をめぐる、このほとんど絶望的ともいえる状況の中で、私たちは自由という理念をいかに共生のための希望としてもち続けられるだろうか。本稿は、この問いへの回答に向けた試みをいくつかの角度から素描するものである。まず、手掛かりとなりうる試みとして、社会学的な志向にもとづき、相互性の理念を軸に自由な共生社会の構想を探求したジョン・ロールズの規範的政治哲学、とりわけこれまで比較的等閑視されてきた後期の政治的リベラリズムの構図とその注目すべき特徴を確認する。ここでは公共世界と非公共世界の「区別」に関する、あまり注目されてこなかったロールズの独自の概念化様式が開いた新たな理論的可能性を中心にみる。その上で、規範的政治哲学と社会学とのありうべき協働関係を論じる。社会学でも近年、社会的世界の相互構築における日常の道徳性のあり方に改めて関心が高まっている。社会的世界の道徳性に注目してきた経験社会学との協働により、共生と呼びうる社会の創出をめざし規範理論が社会に働きかける力を高めていくことができるだろう。ただし、政治哲学という営みに関する知識社会学的な考察からは、政治の(再)哲学化の流れと慎重に向き合っていく必要性もまた示唆される。