2020 年 14 巻 p. 6-18
「多文化主義は女性にとって害悪か」。この疑問は、多文化主義に投げかけられる根本問題である。多文化主義はマイノリティの文化に承認を与えるが、その結果、承認を受けたコミュニティの内部で個人の権利が制限される。そして、そうした権利を制限される個人は、多くの場合、女性なのである。だが、ムスリム女性について分析をおこなった本稿は、多文化主義をめぐるこうした支配的ディスコースと異なる知見を導きだしている。それによると、多文化主義は、女性たち自身の手による宗教的探求を促すことで「イスラームを人間化」し、その結果、市民社会の価値との両立を実現するとともに、彼女たちのより広い社会への参加を可能にしている。本稿では、イギリスの移民第二世代ムスリム女性のヒジャブ着用/未着用をめぐる態度についての分析を通じて、女性の自律と信仰の関係とともに、多文化主義、イスラーム、西洋社会への統合との間にあるより積極的な結びつきについて議論をおこなう。