現代社会学理論研究
Online ISSN : 2434-9097
Print ISSN : 1881-7467
身体と反省・再帰性
N.クロスリーの身体論の検討
森山 達矢
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ジャーナル オープンアクセス

2009 年 3 巻 p. 150-162

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抄録

身体化された実践をいかにとらえるのか。本稿はこの間いをめぐるものである。ピエール・ブルデューの研究が明らかにしたように、再生産においては日常の前反省的な実践が重要な役割を果たしている。しかし、そうした実践は意識しておこなわれない行為であるがゆえに、その行為主体ですら言語的な説明が困難なものとなっている。本稿では、そのような実践をいかにとらえるのかという視点から、ニック・クロスリーの身体論を検討する。ブルデューが実践やハビトゥスの前反省性を強調するのに対し、クロスリーは実践の反省性や再帰性を強調する。クロスリーは、モーリス・メルロ=ポンティ、マルセル・モース、G.H.ミードらの議論を摂取しながら、実践や身体技法における精神的側面と社会的側面の両方をとらえる「再帰的身体技法(reflexive body techniques) 」概念を提出している。クロスリーはこの概念によって、行為主体の精神的側面を強調すると同時に、ハビトゥスや実践が機械的なものではないということを主張し、そして日常的な実践や身体技法を、言説と行動のどちらにも還元しない研究のあり方を指し示そうとしている。クロスリーのこうした議論は、主観性にも客観性にも還元できない身体的生をとらえようとするものであり、身体論に関して新たな視点を提示している。

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© 2009 日本社会学理論学会
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