日本の多文化主義は、政治的な力関係を無視し、変革を目指さないといわれてきた。外国人を対象とした日本語教室は、外国人と日本人が非対称な関係で出会う「コンタクト・ゾーン」だが、他の支援組織より信頼関係を築きやすい。日本語教室に非対称な関係を乗り越える可能性があるだろうか。
そこで実際、その可能性があるのかどうかを探るために長野県Z市Z日本語教室による多文化フェスティバルを参与観察、インタビューの手法をもちいて調査した。このイベントは外国人が、ブースでポスター、オブジェなどを展示、料理を提供し、ステージではダンスや音楽を披露し、自国を紹介するというものである。
調査においては、日本人主催者の意図・運営、日本人観客の反応、外国人参加者の反応に焦点をおき、多角的にこの多文化フェスティバルを検証していく。このフェスティバルは「同じ目線の交流」が目指されている。しかし、日本人主催者が在住外国人の現実の姿を消し、それぞれの国を観光的に表象することによって、観客はそれに呼応した「まなざし」になっていた。その結果、外国人の違和感や問題が隠され、日本人と「まなざし」のズレが生じていた。
なぜ多文化フェスティバルは観光のまなざしに収斂し、外国人の違和感や問題に目を閉ざしてしまうのか。ボランティア・市民による多文化主義の現在を考察する。
抄録全体を表示