現代社会学理論研究
Online ISSN : 2434-9097
Print ISSN : 1881-7467
規範的社会理論の批判的検討
R・ローティの共通悪アプローチをめぐって
安部 彰
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ジャーナル オープンアクセス

2009 年 3 巻 p. 99-110

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抄録

社会学は、社会のありよう/なりたちを「認識」する学でもあるが、社会を「構想」する学でもある。現代のような多元化した社会においてかかる構想は、その身体や価値・信念においてそれぞれに異なる人々が、にもかかわらず共に生き、在るために要請される。だとすれば規範的社会理論の課題は、いかなる価値がまさにかかる要請に応えるものであるか、その社会の実現可能性も含め考究することにほかならない。
ところで、そうした「多元性の事実」を認めつつも、ある通約的な価値を措定する立場がある。我々は「互いに回避したい価値(共通悪)」のもとであれば連帯できるはずだというのである。その認識/方向性は基本的に正しいが、「共通悪とは何か(何であるべきか)」という重要な問題は残されたままである。たとえば絶対的な真理・価値なるものを想定することなしに一一「多元性の事実」を起点としつつ一一人々がいかに連帯しうるかを考究したR・ローティはそれを「残酷さ」一一身体的苦痛と精神的苦痛一ーであるとする。
本稿では、ローティの理説とそれへの批判を検討しつつ「残酷さ」一一精神的苦痛ーーの回避にまつわる重層的な困難について指摘する。そのうえでしかし不要な苦痛は減らされるべきだし、また減らすことができるとして、その道筋の提起を試みる。

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© 2009 日本社会学理論学会
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