抄録
チャールズ・テイラーはカナダ/ケベック出身の哲学者で、現代の英米圏でもっとも重要な社会理論家の一人であるが、彼が1992年に書いた「承認の政治」論文は、「多文化主義」を象徴する議論として広く知られている。これに対して明戸(2009)では、テイラーの言語共同体論を(多文化主義ではなく)「ケベック・ナショナリズム」に基づくものとして読み直した上で、それにもかかわらずテイラーの議論が「ナショナリズム」の限界を乗り越え、「公共圏」と接続される可能性をもつことを示そうとした。本論文ではこうしたことをふまえて、テイラーにおける「親密圏における承認」という議論を手がかりにしながら、あらためてテイラーの議論と「公共圏」の関係について考えてみたい。具体的には、テイラーが強調する言語共同体論においては「親密圏における承認」という論点が重要な役割を果たしていること、そしてこうした議論が政治的には「共同体の存続」を正当化するものであることを明らかにする。その上で、こうしたテイラーの言語共同体論が「公共圏」とは必ずしも両立しない側面をもちつつも、それがそれでもなお「公共圏」と接続しうる可能性を、アイデンテイティの変容可能性および「地平の融合」という論点を(再)提起することによって示したい。