現代社会学理論研究
Online ISSN : 2434-9097
Print ISSN : 1881-7467
「他者との倫理的関係」とは何か
J. バトラーにおける「倫理への転回」を手がかりとして
髙橋 賢次
著者情報
ジャーナル オープンアクセス

2015 年 9 巻 p. 67-80

詳細
抄録

本稿は、2000 年以降にJ. Butler が展開している「倫理」をめぐる思考に注目し、攪乱に主眼を置いた従来の議論の延長線上に理論的に位置づけることによって、Butlerのいう「他者との倫理的関係」のヴィジョンが持つ社会学的な含意を明らかにするものである。
本稿ではまず、パフォーマティヴィティ概念を主軸とする攪乱の議論と、それに対する批判を概観する。Butlerの議論に通底しているのは、攪乱の契機に注目することによって、その社会的な条件を遡行的に問い直す志向性であり、2000 年以降の「普遍性」をめぐる解釈の転換や、「性」から「生」への重心の移動は、いずれも、こうした志向性のさらなる徹底によってもたらされたものと理解することができる。
こうした志向性を読解の基軸に据えるとき、近年になって前景化した「倫理」の主題系もまた、従来の議論からの内的必然性をもった展開であることがわかる。とりわけ、こうした展開の背景には、Butler自身が従来の「倫理」理解を批判的に問い直していくプロセスがあった。このように本稿では、攪乱の議論から「倫理」の主題系に至るストーリーを理論的な視点から再構成することによって、「倫理」をめぐる議論を外的な政治・社会状況へと性急に結びつけるような批評的読解を相対化するとともに、「他者との倫理的関係」のヴィジョンが、既存の社会学的な記述の地平に問い直しを迫るものであることを論じる。

著者関連情報
© 2015 日本社会学理論学会
前の記事 次の記事
feedback
Top