抄録
嚥下障害は,誤嚥性肺炎の原因となり,経皮内視鏡的胃瘻造設術 (percutaneous endoscopic gastrostomy: 以下PEG) は 脳梗塞,認知症や老衰状態の経口摂取困難な高齢者に広く普及している。PEG造設後は経口摂取しなくなり食事の誤嚥による肺炎は無くなるが,PEG造設後の合併症の一つにも肺炎が挙げられる。今回我々は,1) PEG造設による肺炎発症の抑制効果,2) 逆流性食道炎,食道裂孔ヘルニアの内視鏡による所見の有無を指標に胃食道逆流症に起因する誤嚥とPEG造設後の肺炎との関連性,3) PEG造設前と後の肺炎の有無による生存率を調査検討した。2001年1月から2010年12月の期間に当院でPEG造設が施行され,2014年12月まで経過観察・追跡調査し評価可能であった222症例を対象に後ろ向きに検討した。PEG造設前に肺炎を認めた症例は119例,造設後に肺炎を発症した症例は124例であり,PEG造設により肺炎の発症が減少しないことが確認できた。食道裂孔ヘルニアが55例,逆流性食道炎が41例で,PEG造設前での肺炎の有無と逆流性食道炎,食道裂孔ヘルニアの関連を調べたが有意差を認めないが,逆流性食道炎,食道裂孔ヘルニアのある症例のPEG造設前と後での肺炎発症の有無に有意な関連性を示した (P < 0.05)。肺炎が最も多い最終的な死亡原因であり,PEG導入前に肺炎が認められた症例は生存率が有意に低かった (P < 0.001)。PEG造設により肺炎発症の抑制効果は期待できないと考えられた。
胃瘻造設前の肺炎の有無と胃食道逆流症の有無は重要な肺炎発症・予後の予測因子となり,それを把握することは施行後の患者管理上きわめて重要と考えられた。