2016 年 43 巻 4 号 p. 269-274
腸管膜様包裏症は白色〜灰白色の線維性被膜に小腸を中心とした腹腔内臓器が覆われ,イレウス症状を呈するまれな疾患である。英語ではsclerosing encapsulating peritonitis (SEP) と訳され,原因が明らかである続発性と,明らかでない特発性に分類される。今回我々は,急性にイレウスを発症し,緊急手術を施行した特発性の腸管膜様包裏症の一例を経験した。症例は74歳の男性で,前日からの嘔吐,腹痛を主訴に当院を受診した。腹部造影CT検査で上腹部にヘルニア嚢様構造物を認め,小腸が嵌頓している様であり,内ヘルニアの診断で緊急手術を施行した。開腹すると小腸全体が線維性被膜に包まれており,被膜を切開すると内部に漿液性の腹水を認め,小腸がさらに線維性被膜に包まれて癒着していた。腸管膜様包裏症と診断し,可能な限り小腸同士の癒着を剥離し,線維性被膜を切除した。術後経過は良好であったが,退院後に2回腸閉塞で再入院した。腸管膜様包裏症の画像所見は内ヘルニアと類似している。症状は慢性から急性の経過でイレウス症状を呈するが,自験例では急性の経過であり,内ヘルニアの疑いで緊急手術を施行した。術中所見では腸管の虚血性変化は認めず,まずは保存的加療を選択できた可能性があった。腸管膜様包裏症は稀な疾患であり,術前診断に苦渋したが,その重要性が示唆された一例であった。