水利科学
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一般論文
カンボジア中央部の低地乾燥常緑林の成立要因
──土壌水分状態とそれを規定する立地環境条件──
荒木 誠玉井 幸治大貫 靖浩伊藤 江利子
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2011 年 55 巻 4 号 p. 37-61

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抄録

植物の成長を規定し,生育する森林植生を支配する最も大きな要因は,気温と降水条件である。カンボジア中央部の低地は明瞭な乾季をもち,気温や降水量など気候要因を基にした区分では熱帯サバンナと位置づけられ,乾季に落葉する森林が分布する地域である。しかしながら,ここには乾燥常緑林が成立している。さらに,最近の研究結果から,この森林では乾季後半の最も乾燥する時期にさえ,蒸発散が起こっていることも明らかになってきた。この原因を明らかにするため,この森林における土壌水分状態の実態を調査するとともに,土壌特性,土層の厚さ,地下水の動態について調査,研究を進めた。 その結果,この地域では,乾季であっても樹木の生育を阻害するほどには土壌は乾燥しないという実態が明らかとなった。そして,そのような乾季における土壌水分の維持は,次のような 3 点によって支えられていると考えられる。

1) 乾燥時にも土壌水分を保持できる微細な孔隙に富む土壌特性を持つこと

2) そのような特徴を持つ土壌が厚い層を成し,土壌の水を貯える容量(保 水容量)が大きいこと

3) 上流部からの地下水供給が乾季にも続き,比較的高い地下水位が年間を 通して維持されること

これらのことが重なって,乾季後半の最も乾燥する時期にも盛んな蒸発散を示す乾燥常緑林が成立している。

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© 2011 一般社団法人 日本治山治水協会
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