水利科学
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一般論文
  • 和田 一範
    2025 年69 巻2 号 p. 1-43
    発行日: 2025/08/01
    公開日: 2026/08/01
    ジャーナル フリー
    本論文は,多摩川の水利史の大きな柱である二ケ領用水について,その400年の歴史を改めて検証し,あわせて享保年間,田中丘隅によって改修された事業と,昭和初期から戦前,戦後にかけておこなわれた近代改修について,久地分量樋と,円筒分水に視点をあてて,検証をおこなうものである。 小泉次大夫が1599(慶長4 )年の着工から,1602(慶長7)年川崎領の開削工事完成を経て,1609(慶長14)年稲毛領開削工事完成,1611(慶長16)年二ケ領上河原堰完成,1629(寛永6 )年の二ケ領宿河原堰完成まで,30年の歳月をかけて完成させた二ケ領用水は,1597(慶長2 )年から15年の歳月をかけて開削した六郷用水とあわせて,多摩川北岸部では世田ヶ谷領と六郷領,あわせて南岸部では稲毛領と川崎領の4 カ領を通っているため,四ヶ領用水とも呼ば れ,多摩川の利水史に大きな役割を果たすことになる。 しかし,当初の用水はその後100年経って,ほとんど機能しなくなっていた。 小泉次大夫の整備から約100年後,1724(享保9 )年,田中丘隅が二ケ領用水の改築をおこない,上河原取入口,久地分量樋などの施設を整備した。あわせて1725(享保10)年,農業用水利用の秩序の乱れを是正するためのきびしい取締方針を示す「御座法書」を公布,水管理の徹底をおこなった。 以降,新田開発が急速に進む。あわせて水騒動が頻発し,江戸時代を通じて,水争いは絶えることがなかった。 そして時代は,明治大正の近代にはいる。従来,水争いは,二ケ領用水,六郷用水ともに,各用水内部での事件に限られたものであったが,明治末期になると,多摩川をはさんで両岸用水組合間の緊張対立にまで発展することになった。 昭和に入ると,近代化に伴う二ケ領用水の転身ともいうべき,動きが出てくる。当時の二ケ領用水供給地域の農地は,川崎市を中心に工業化,都市化の進展によって,漸次減少傾向となっていた。 あわせて,昭和6(1931)年,東京府が発表した小河内ダム建設計画(上水,発電)が,二ケ領用水の近代化への道を,決定付けることとなる。 すったもんだの難交渉の末,東京市が補償金230万円を支払い,このうち153万円を神奈川県は二ケ領用水改修費の補償金として受領することになった。二ケ領用水は,東京市の補償金により,円筒分水による久地分量樋の改造を含め,2 つのコンクリート造の取水堰と,全面コンクリート造の用水幹線など,当時最新鋭の施設に改築されこととなった。 そして,これが工業都市川崎の発展を支える礎となった。川崎市の子供たちは,二ケ領用水のはなしを必須の郷土史として学ぶ。川崎市出身の筆者も,小学校の授業でこの二ケ領用水と円筒分水の郷土史を学んだ。 ところが,いつの頃からか,この説明が,大きく変わってきているのである。現在語られる二ケ領用水と円筒分水の歴史は,次のようなものである。 ・小泉次大夫が,長年間,難工事の末,14年の歳月をかけて六郷用水とあわせて完成させた二ケ領用水は,(その後,機能しなくなり,)享保9(1724)年田中丘隅が全面改修,久地分量樋,上河原取入口などを整備した ・久地分量樋は,水路を4 つの幅の水門で分けただけだったので,水路の中央部では流れが早く流量も多く,岸の近くではその反対になり,正確で公平な分水はできなかった。このため,水争いが頻発していた・昭和に入って,久地分量樋は,昭和16(1941)年コンクリート製の円筒分水に改築され,これによって水紛争が解決した ・円筒分水は,平成10(1998)年川崎市で初めての国登録有形文化財(建造物)に登録された事情を知る筆者が大きく首をかしげるのは, ①田中丘隅の久地分量樋は,約200年にわたって機能してきたものであり,明治43(1910)年の稲毛川崎二ケ領普通水利組合による改修にあたっても基本的な構造は,踏襲されていた。その久地分量樋を,分水機能に問題があったために,水争いが絶えなかったと,こんなにボロクソに言ってしまっていいのか。 ②久地分量樋の分水機能を確保するために,円筒分水への改築がなされた,という説明でいいのか。 ③農業用水から工業用水への転換を,時代に即したかたちでうまく切り抜けた立役者たちの顕彰を抜きにして,郷土史二ケ領用水を語っていいのか。 という点である。 本稿は,現在語られる二ケ領用水と円筒分水にかかる郷土史を分析し,その検証をおこなうものである。
  • ─戦後80年間の水害と治水の軌跡─
    末次 忠司
    2025 年69 巻2 号 p. 44-73
    発行日: 2025/08/01
    公開日: 2026/08/01
    ジャーナル フリー
    戦後日本は大きく経済発展を遂げるとともに,着実に国土保全が進められてきた。その間,水害は形態を変えながら,市民生活や産業活動に脅威をおよぼしてきた。水害に対する治水対策は治水行政の転換に対応しながら進められ,戦後の水害被害の軽減に貢献してきた。令和7(2025)年には戦後から数えて80年を迎える。この間には様々な社会経済状況の変化や国際情勢の変化などもあり,それらが治水行政に大なり小なり影響をおよぼした。 本稿では,戦後治水50年史として執筆された「戦後治水行政の潮流と展望(1994)」,戦後治水70年史である「水害から治水を考える(2016)」などをベースとして,こうした状況の変化を関連するデータ・統計や指標のトレンドを見て分析するとともに,それらに対する治水行政の対応について考察しながら,これらの動向を今一度総合的・多角的に振り返って分析してみることとした。
  • 末次 忠司
    2025 年69 巻2 号 p. 74-106
    発行日: 2025/08/01
    公開日: 2026/08/01
    ジャーナル フリー
    河道計画や減災計画を策定する際は,河道・洪水特性や地域・地形特性に配慮して策定する必要がある。そのため,各々の関連分野に関する技術基準(マニュアル)を各々の特性に従って参照して適用するのはもちろんのことであるが,災害や状況によっては更に深く掘り下げて検討したり,場合によっては技術基準に対して例外的な扱いをすることもありうる。過去に発生した洪水や氾濫を対象に検討する際,適当な対象事例が少ない場合,類似した流域を対象に検討を行うことも考える。類似流域とは,黒部川流域と釜無川流域,北上川流域と長良川流域などである。また,検討にあたって現象理解で誤解されているもの(樹林化河道の洪水流計算,河床変動原因など)もあるし,検討課題として残っているもの(氾濫解析の破堤敷高や二線堤の扱いなど)もある。 本報は著者や他研究者の研究成果に従って,河道・減災計画策定にあたって留意すべき事項を包括的に整理したもので,雨量・粒径調査に始まって,洪水流・河床変動,施設計画,氾濫・減災,利水・環境に至る広範囲の河道・減災計画に関係する内容を網羅している。なるべく実態に即するよう,現場での観測や経験に基づいているものも多い。従って,技術基準に記載されていない,または記載内容とは異なる内容が含まれているが,実務に即した内容となっているので,是非官公庁職員や建設コンサルタント技術者などに活用して頂きたい。特に留意すべき事項については,文章に下線を引いている。
  • ─北海道の海外資本等による森林取得実績を通じて─
    石井 洋二
    2025 年69 巻2 号 p. 107-121
    発行日: 2025/08/01
    公開日: 2026/08/01
    ジャーナル フリー
    日本における海外資本等による森林取得に関して,北海道の実態に焦点を当て,分析を行った結果,森林取得面積及び取得件数ともに,増加の一途を辿っていることが判明した。また,森林取得面積及び取得件数ともに,同国名の上位3 か国(自治領含む)が過半数を占めた。地域レベルで局所的に水源となる森林の公有化などの実用的な取組が行われていることが判明する中,グローバルな国際社会に対応した全域的な枠組みを策定し,地域レベルの実用的な取組と連動させていく必要性が示唆された。
  • 濱上 邦彦, 八巻 さつき
    2025 年69 巻2 号 p. 122-137
    発行日: 2025/08/01
    公開日: 2026/08/01
    ジャーナル フリー
    ため池では流入流出が少ないため水の循環率が悪く,とくに夏季においては水温成層の形成により池内の循環がさらに抑制され,底層の貧酸素化といった水質問題が起きやすい。また,近年管理体制の脆弱化などによりアオコの発生が問題となっている。アオコは夏季に藍藻類の異常増殖によって発生し,異臭や景観悪化,魚類の斃死などを引き起こす。アオコ発生の制御を行う上で水温成層の形成・消失過程と藍藻の挙動の関係を解明することは重要な課題である。 藍藻は浮力調節能を持ち,日周的に鉛直移動を繰り返すことが知られている。このことが,競合する他の藻類よりも有光層への効率的な展開や栄養塩の獲得において有利であると考えられている。しかし,この鉛直移動には生態学的要因,水理学的要因,気象要因などが複雑に作用していたため,実際のフィールドでの観測結果は一様でない。本観測では特に水理学的要因に着目し,観測事例の少ない浅いため池において水温成層化と混合の精密な測定を行った。 その上で,藍藻と他の藻類との日周的な挙動の違いを検討した。その結果,水面付近へ移動した藍藻群の移動速度は既往の室内実験結果よりも大きいことが示された。
  • -2022年8 月豪雨で被災した新潟県村上市における土砂災害の解析例─
    秋田 寛己, 平 春, 田口 仁
    2025 年69 巻2 号 p. 138-156
    発行日: 2025/08/01
    公開日: 2026/08/01
    ジャーナル フリー
    本研究は,2022年8 月豪雨で土砂流出のあった新潟県村上市の周辺地域を対象に,空間分解能の異なる4 種の光学衛星データを用いてNDVI 差分値(ΔNDVI)の計算により土砂流出範囲を広域に抽出し,空間分解能の違いが抽出手法の適用性とその抽出率に及ぼす影響を調べた。Δ NDVI はいずれの衛星データでも中央値と平均値がかなり近かった。Δ NDVI 閾値ケースごとに抽出範囲を比較すると,Δ NDVI 閾値を低く設定するほど抽出範囲が拡大していた。適合率と再現率の関係はy=ax2+bx+cの二次式で近似でき,両者は閾値が高くなるにつれて適合率も高くなる一方,再現率が低くなるというトレードオフの関係にあった。衛星データ間で二次式の近似曲線を比較すると,適合率・再現率が全体的に高い順にPlanet,Sentinel-2,SPOT,Pleiades となった。空間分解能が細かいPleiades は両者が低水準であり,適合率・再現率は衛星データの空間分解能に比例するとはいえない。F 値が最大となるΔNDVI 閾値は0. 20~0. 25の範囲にあり,中分解能のPlanet やSentinel- 2 が高くなり,抽出の適用性は空間分解能の細かさと比例関係にはなかった。その理由として,今回の対象地域の土砂流出範囲の面積分布が最頻値42m2,中央値253m2と比較的中程度の面積サイズが優占していたため,これらの面積に適合する中分解能の衛星データを使用した場合に適合率・再現率が結果的に高くなったと考えられた。そのため,対象とする地域の土砂流出範囲の面積サイズに適合する空間分解能の選択が効果的であることが示唆された。
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