水利科学
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一般論文
  • ─御幸尋常高等小學校郷土史にみる教訓の継承─(その2)
    和田 一範
    2024 年68 巻5 号 p. 1-44
    発行日: 2024/12/01
    公開日: 2025/12/01
    ジャーナル フリー
    郷土史川崎市御幸尋常高等小學校。川崎市立中原図書館,幸図書館蔵。発刊の年月は記載がなく,中原図書館蔵のものには手書きで,昭和八年刊の書き込みがある。執筆者の記載もない。 この冊子には,第四章,明治及大正時代,第五節有吉知事と有吉堤の由来,として13ページ分が割かれ,アミガサ事件と有吉堤にかかる騒動の顛末が紹介されている。 注目すべきは,「アミガサ事件」の呼称が記されていることである。大正3(1914)年9 月16日の神奈川縣庁への請願行動およびその後の顛末は,当時,横浜貿易新報に詳細に報道され,その他の全国紙においても報道が確認されているが,この中でアミガサ事件の名称は使われていない。 ということで,郷土史川崎市御幸尋常高等小學校は,アミガサ事件の呼称を,歴史上はじめて記した文献,資料ということになる。ここにはアミガサ事件の名称とともに,神奈川縣庁への請願行動の模様が詳細に記載されている。 ただし,請願を契機としての,その後の関係者の動きなど,この事件の本質にかかる記載は薄く,もっぱら大集団で縣庁に押し掛けた,道中の描写に力が入っている。 また,アミガサ事件の前年の神奈川縣知事あての請願書と,アミガサ事件の直後に,内務大臣にあてた多摩川沿岸新堤塘築造陳情書の全文がそのまま掲載されている一方で,以降の関係者の取り組みや,道路改良に名目を借りた有吉堤の建設に至る経緯,対岸東京府との大騒動になった経緯などは,非常に簡略な記載である。 石原知事や有吉知事の発言など,裏付けのない,いささか作り話ではないかと首をかしげる記述もあるが,一応,有吉堤が大騒動の結果,正式な河川堤防として認可された経緯が載っている。 昭和8(1933)年当時,一連の事件と騒動については,横浜貿易新報の記事を除くと,一般の者が手に入る書物等には,記載がほとんどなく,この執筆者は,前述の請願書と陳情書以外の公文書も,すべては認識されていないと思われるので,郷土史のこの文章は,当時,事情を知る人々,地元御幸村の村民たちから,おもに口承で聞きだしたものを,執筆者たちがまとめて記述したものと考えられる。 アミガサ事件と有吉堤にかかる一連の騒動を経て,大正7(1918)年,スタートした内務省直轄改修は,この年,昭和8(1933)年には完成して,上流区間に工事区間を延伸している。堤防そのものは,昭和5(1930)年には,大堤防の連続堤としてかたちができ上がっていた。 この間に,一連の騒動にかかる人々の記憶は,順次薄れ,この時期には,日ごろの話題に上ることも少なかった,と思料されるが,アミガサ事件の発生から19年の時を経て,人々がどのようにこの一連の騒動を語り継いできたのかが,おおよそ俯瞰できる。 本稿では,アミガサ事件の発生から19年の時を経て,編纂された郷土史川崎市御幸尋常高等小學校において,アミガサ事件と有吉堤の騒動,そして多摩川の抜本改修である内務省直轄改修の開始に至る一連の騒動の教訓が,どのようなかたち,如何なる経緯で伝えられたのかを考察する。 そこには,災害と防災にかかる教訓の継承にかかる,歴史的な示唆がある。
  • 末次 忠司
    2024 年68 巻5 号 p. 45-79
    発行日: 2024/12/01
    公開日: 2025/12/01
    ジャーナル フリー
    水難事故は発生件数,死者・行方不明者数ともに経年的に減少傾向にあるが,依然として年に700~800人が犠牲となっている。死亡時の場所・行動は海での魚釣り,海水浴,川での水遊びなどが多い。こうした水難事故はちょっとした不注意で起きたり,事前の情報や心構えがないために起きることも多く,雨・洪水・川のことをもっとよく知っていれば,防ぐことができる。そこで,本報では河川における水難事故を中心に,水難事故の実態(全体論,個別論)を明らかにするとともに,事故にあわないために注意すべき事柄を洪水・河道特性の観点,人間行動の視点から分析を行った。また,事前・現地における対応策をいくつかのシチュエーション(事前,現地〈川や海〉,泳ぐ時,溺れた時)に分けて,具体的に示した。現地における対応策では,川の利用者だけでなく,警察・管理者による対応についても記述した。
  • 池末 啓一
    2024 年68 巻5 号 p. 80-100
    発行日: 2024/12/02
    公開日: 2025/12/01
    ジャーナル フリー
    令和2 年7 月豪雨は福岡県の大牟田市民に思ってもみない内水氾濫をもたらした。湛水深は最高約2 m にも及び,救助に際しては自衛隊などのボートが使用された。この氾濫によって死者2 名(三川地区),床上浸水1, 581戸,床下浸水4, 120戸であった。市内の各地点の時間雨量は地域的にかなりの差が見られ,中心市街地の湛水深も大きかった。小論では筆者が多くの内水氾濫の体験者に話を聞き取ったものを報告した。また,その水文学的検討も行った。さらに,筆者自身の外出先などの体験にも触れた。その体験はキッチンでの滲出水,中庭の下水の逆流,駐車場の浸水,中小河川の増水,自宅でのセミの異常な羽化などである。死者2 名の出た三川地区の浸水についてもその地形的背景を述べた。最後に,今回の豪雨災害の原因・教訓・問題点・対策についても触れた。大牟田市令和2 年7 月豪雨災害検討委員会は対策として「流域治水」を提言している。筆者は現状(都市化した流域の土地利用,流域の低下した浸透能)を考慮した,木曽川下流の「輪中地帯」の水害対策を参考にしたものを提案した。
シリーズ:森林の防災減災機能と他の機能との両立を目指して
  • 玉井 幸治
    2024 年68 巻5 号 p. 101-103
    発行日: 2024/12/01
    公開日: 2025/12/01
    ジャーナル フリー
    森林は木材生産機能の他にも,防災減災機能など非常に多様な機能を持ち,社会に恩恵をもたらしている。森林・林業白書には例年,世論調査に基づいて作成された「森林に期待する機能」を示す図が掲載されている。 それによると多様な森林の機能のうち,土砂災害や洪水などの災害を防止する防災減災機能への期待は1980年以降では常に1 ~ 2 位を占めている。これは,気候変動に伴う極端な気象現象の頻発も背景にあるのかもしれない。その一方で,森林の洪水緩和機能を維持するためには斜面崩壊抑制などによる森林土壌の保全が必要なこと(玉井,2021),樹木根系には表層崩壊を防止する効果がある(北村・難波,1981)といった研究成果が得られている。表層崩壊が発生する時に,斜面下方に崩壊していく表層土に含まれている根系は引っ張られ,移動する表層土に対して抵抗力を作用させる。これが根系による表層崩壊防止効果のメカニズムと考えられている。根量が多いほど,根が太く丈夫なほど,表層崩壊防止効果は大きいと考えられる。そのため皆伐再造林時における根系による表層崩壊防止効果は,皆伐から10年で大幅に低下するが再造林を行えば回復も早い(岡田ら,2023)。伐根は次第に腐っていくものの,植栽木の根系が速やかに発達するためと考えられている。 一時的にではあるが,樹木根系による表層崩壊防止効果を低下させる皆伐再造林を避けるという考えが,土砂災害や洪水などの災害を防止することのみを目的とすれば選択肢となるかもしれない。しかしながら他の機能も考慮に入れると,この選択肢は現実的ではない。 災害の頻発化・激甚化の原因ともされる気候変動の緩和策の一つとして,二酸化炭素を吸収することにより地球温暖化防止に貢献する森林の炭素吸収固定機能への期待も大きい。この機能を促進させるためには,樹木の伐採は必要であろう。図2 から,スギ人工林を対象に齢級別二酸化炭素(CO2)固定能を高く維持するためには,伐採による更新が必要なことが解る。また木材を長期間にわたって利用することによる炭素固定の促進のためにも,樹木伐採による木材生産は必要である。
  • ─根系情報を取得して力学的に評価する─
    岡田 康彦
    2024 年68 巻5 号 p. 104-114
    発行日: 2024/12/01
    公開日: 2025/12/01
    ジャーナル フリー
    スギ根系が表層崩壊の発生を抑制する機能について,皆伐後すぐに新規植栽を行った林分を想定して50年間の動態を調べた。表層崩壊の潜在的なすべり面に対し,そこに位置する根の本数と直径を基に補強強度を算出してその経年変化を追跡した。その結果,伐採された根株の根は約9年でその強度が消失し全体の根株が発揮する防止機能は著しく低下すること,他方,25年程度までに元の強度を回復し,その後は大凡一定値に収束することがわかった。直下に保全対象が存在するような山腹斜面において森林施業を計画し,そして実施するにあたっては十分に注意を払う必要であること,皆伐を実施する場合はその後の速やかな新規植栽が重要であることが示された。
「雪の研究」シリーズ
  • 岡本 隆
    2024 年68 巻5 号 p. 115-133
    発行日: 2024/12/01
    公開日: 2025/12/01
    ジャーナル フリー
    世界有数の豪雪地帯を擁する日本において,積雪環境は地すべり活動に強い影響を与える。本論では,地すべりの誘因としてよく知られる融雪に加え,荷重やせん断抵抗といった積雪の力学的な側面にも焦点を当て,それらが地すべりに及ぼす影響について論じた。まず,積雪荷重はすべり面に作用する抵抗力とせん断力をともに増加させ,地すべりの安定性に対して正負両面から影響を与える。積雪荷重はまた,地すべり土層を圧縮することで透水性を低下させ,間隙水圧の上昇を抑制する機能を持つ。その一方で,難透水性の地層では,積雪荷重によって過剰間隙水圧が生じ,地すべりを不安定化させることもある。 積雪層のせん断抵抗力は,地すべりの移動を抑制する役割を果たす。以上のような積雪の多様な影響を総合的に検討することで,積雪期の複雑な地すべり運動の理解を深め,将来の防災施策の基盤として活用されることが期待される。
シリーズ:全国47都道府県土砂災害の歴史
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