2011 年 26 巻 5 号 p. 589-597
症例は70歳,男性.糖尿病にて近医に通院中,径約3cmの膵体尾部腫瘤が指摘され,当院に紹介された.膵体部癌の診断で膵体尾部切除+D2リンパ節郭清術が施行された.脾静脈浸潤とNo. 11pリンパ節転移を伴う中分化型腺癌の診断で,退院後は半年間の補助化学療法が施行されたが,手術後3年の造影CT検査にて肝S6区域に径約3.5cmの腫瘤が指摘された.膵癌肝転移の疑いで化学療法を開始するも,腫瘤の増大を認めたため肝S6亜区域切除が施行された.病理組織学的に低分化型腺癌の像を示し,膵癌との類似性を認めないことから肝原発の肝内胆管癌と診断された.膵癌の転移再発症例は一般的に手術適応にならず,膵癌根治術後の肝腫瘤が指摘された場合,その質的診断は極めて重要である.本症例のように肝内胆管癌であれば切除による根治の可能性があるため,膵癌術後の肝腫瘤は,膵癌肝転移とともに重複癌である可能性を念頭に置くべきである.