抄録
イオン交換膜法電気透析による, 海水の脱塩における溶存物質の透析挙動について研究し, あわせて脱塩水の化学組成と河川水などの組成と比較を試みて次の諸結果を得た.
(i) 海水の溶存主成分のうち大部分は透析されやすく, ストロンチウムも, 他のアルカリ土類金属イオンとほぼ類似の傾向を示すと推定した, しかしホウ素およびケイ素は, ほとんど透析されない. これは, おそらくそれぞれ無荷電のB(OH)3およびSi(OH)4なる化学種として存在しているものと考えた.
(ii) 海水中の微量重金属はバナジウムを除いて, 大部分はその傾向に差異はあっても透析される. 鉛は初期は減少するが, 脱塩がすすむとともに透析されにくくなる. また, 銅, 亜鉛, カドミウム等の溶存形が錯体などの形であるか否かは明らかではない. モリブデンは初期はほとんど透析されず, 脱塩率89%あたりから急激に減少する. しかし, バナジウムは, ほとんど透析されずに残留する. これは,[VO2(OH)2]2-などが陽イオンとのイオン対のままであるか, あるいは [H2V4O13]4-のような重合イオン, またはそのイオン対としての溶存のいずれかによって透析されにくいものと推定した.
(iii) 炭水化物ならびに, これをも含めたCOD物質は, 予想されるとおり脱塩水中に残留した.
(iv) 塩素イオン200mg/l前後の脱塩水について, その組成を同じ濃度の希釈海水ならびに, 河川水組成と比較を試みた結果, 脱塩水中には多量のホウ素が残留すること, ならびに有毒物質のバナジウムが同様に残留する傾向がある点で, 飲料水としては衛生上の問題があるものと思われた.