本研究では,ステンレス鋼に生じる応力誘起マルテンサイトがSCCの発生・成長に及ぼす影響をステンレス鋼の組織変化と変形メカニズムの観点から明らかにすることを試みる.具体的には,まず,液体窒素環境下でSUS304鋼に単軸引張負荷を与えることで応力誘起マルテンサイトの含有量が異なる6種類のSUS304鋼板を作成する.次に,自作した低ひずみ速度SCC試験機と応力誘起マルテンサイト相を含むSUS304鋼を用いて低ひずみ速度SCC試験を行う.さらに,電子線後方散乱回析法と走査型電子顕微鏡を用いて,SUS304鋼板中に導入された応力誘起マルテンサイト相とSCC環境下での主き裂の発生前後の組織観察を行う.結果として,SUS304鋼板中のマルテンサイト相の分布と腐食ピットの発生挙動の関係を明らかにするとともに,腐食ピットの発生挙動とSCC環境下での主き裂の発生・成長の関連を明らかにした.
イオン交換膜法製塩の蒸発缶内で想定される母液条件において,UNS S31600,S31254,S32053,N08354,およびN06022 の孔食電位を測定した.S31600,S31254,S32053,N08354 では,孔食が発生した試験条件と孔食が発生せず主に水の分解反応(酸素ガスの発生反応)が生じた試験条件とに大別された.酸素ガスの発生電位は製塩母液の温度,濃縮度,および金属種による影響を受けないが,孔食電位は影響を受けることが示唆された.取得したデータを用いて,孔食発生の臨界濃縮度,孔食電位を目的変数,製塩母液の温度,濃縮度および金属材料の孔食指数を説明変数とした実験式を作成した.一方,N06022 では,検討範囲においては孔食が発生せず過不働態溶解が発生した.過不働態溶解電位は製塩母液の温度,濃縮度による影響を受けることが示唆された.そこで,製塩母液の温度,濃縮度を説明変数とし,過不働態溶解電位を目的変数とした実験式を作成した.これらの実験式は,イオン交換膜法製塩母液における孔食発生の臨界濃縮度,孔食電位を予測でき,イオン交換膜法における蒸発缶の金属材料の選定に活用できる.