日本海水学会誌
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赤潮原因藻の増殖を抑制する鉄キレート剤の探索とその生理生態への影響
牧 輝弥
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2006 年 60 巻 4 号 p. 243-252

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抄録

ハプト藻Prymnesium parvumは, 世界各地の沿岸海域で赤潮を引き起こし, 毒性の高い細胞外毒を産出することで, 多量の魚類を斃死させる. 本研究では, 鉄と強く結合する種々のキレート剤によるP. parvumの増殖阻害を生理実験によって検証した. その結果, P. parvumの増殖は, BipyridineおよびDesfferrioxamine Bによって顕著に阻害されたため, キレート剤は, 微細藻の摂取可能な鉄を奪い, 微細藻を鉄欠乏状態に追い込むと考えられる. よって, 本キレート剤は, P. parvumの増殖を制御するための有効な薬剤として期待できる. さらに, P. parvumの鉄欠乏に対する応答機構を分子レベルで明らかにするため, 鉄欠乏培養をディファレンシャル・ディスプレイ法に供し, 鉄欠乏下で誘導発現される遺伝子群を解析した. その結果, 鉄欠乏によって転写レベルで誘導されると見なせる全12の遺伝子タイプが得られた. さらにノーザンブロット法によって鉄欠乏下での誘導発現を確認したところ, 9タイプが鉄欠乏下で転写誘導されることが明らかとなった. その9タイプの内, 5タイプが既知遺伝子配列と高い相同性を示し, 4タイプが未知配列であった. 既知配列のなかでも, 特に, 真核生物翻訳終結因子, エノラーゼ, 熱ショック蛋白をコードする遺伝子のクローンが多く得られた. 従って, P. parvumは, これらの遺伝子を誘導転写し, 鉄欠乏による環境ストレスに適応していると考えられる. また, 未知配列の遺伝子タイプも, 鉄欠乏への応答機構に関わっている可能性が得られた.

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