抄録
近年のソフトマター分野における単分子・単原子レベルの構造観察の需要に応えるためには、かつての分解能向上のみを追求した超高圧化とは一線を画する革新的な電子顕微鏡装置の開発が不可欠である。筆者らは低加速電圧の有用性にいち早く着目し、既存装置では到達し得ない大幅な低加速化と高性能化を同時に実現するため、軽元素物質の観察に特化したまったく新しい電子顕微鏡の開発に取り組んでいる。この論文では、球面収差(Cs)補正、色収差(Cc)補正、カーボン(C)ナノ材料、という三つの“C”に重点を置いた、この“トリプルC”プロジェクトのねらいと成果をまとめるとともに、将来の低加速電子顕微鏡の応用について展望する。