2023 年 22 巻 2 号 p. 87-96
Since the accident at the Fukushima Daiichi Nuclear Power Plant, many decontamination works have been carried out. Although the exposure status of decontamination workers has been appropriately managed by the government, there are few examples of detailed analysis of external dose exposure conditions. In this study, on the basis of the GPS location information obtained from GPS devices carried by the workers together with their personal dosimeters, the air dose rate in the work area and the characteristics of each type of work were analyzed. The results showed that more than 50% of the measured actual exposure doses were more than twice the median planned exposure dose calculated from the air dose rate and the number of actual working hours. Furthermore, the analysis by work type showed that demolition workers tended to have higher exposure doses. Such information on workers' external exposure doses linked to location information is useful for a detailed analysis of external exposure factors. Such an analysis also contributes to the optimization of future radiation protection programs for workers.
東京電力ホールディングス㈱福島第一原子力発電所(福島第一原子力発電所)の事故に伴って環境中に放出された放射性物質の分布については,政府や様々な研究機関によるモニタリングやシミュレーションにより詳細な情報が得られている1,2)。このようなモニタリング情報をもとに,2011年4月22日に設定された避難区域(警戒区域,計画的避難区域および緊急時避難準備区域)は,2012年4月1日に避難指示区域(避難指示解除準備区域,居住制限区域および帰還困難区域)に統一された。事故から10年を迎えようとする現在においても福島第一原子力発電所から北西方向の地域を中心に避難指示区域が設定されている(2020年11月10日現在)3)。避難指示区域の中でも長期に渡って居住を制限する帰還困難区域に対しては,「2022年を目途に,線量の低下状況も踏まえて避難指示を解除し,居住を可能とすることを目指す復興拠点を,各市町村の実情に応じて適切な範囲で設定し,整備する」との方針が,「帰還困難区域の取扱いに関する考え方」(2016年8月31日)で示されており4),「特定復興再生拠点区域」が6町村(浪江町,双葉町,大熊町,富岡町,飯舘村および葛尾村)において設定されている。2020年11月10日現在の避難指示区域および特定復興再生拠点区域について,Fig. 1に示す。背景には2019年11月時点の有人ヘリコプターを用いた空間線量率マップをベースに地上からの測定結果を加味してベイズ統計の考え方を適用し補正した「統合マップ」を示している5~7)。
Locations of the zone designated for reconstruction and recovery and the specific reconstruction base area
Background map is the integrated ambient air dose rate map using airborne radiation monitoring and ground-based measurement in November 2019.
このような区域の解除のため,詳細な環境放射線モニタリングとその結果を基礎とした除染作業の努力が続けられている。福島第一原子力発電所周辺の除染作業は,平成23年8月26日に発表された「市町村による除染実施ガイドライン8)」を皮切りに,平成24年度から実施されてきた。除染は,空間線量率のモニタリング結果を目安に,国が直轄で除染を実施する「除染特別地域」と市町村が除染を実施する「汚染状況重点調査地域」を対象に,除染の所管官庁となった環境省のガイドラインをもとに実施されている9)。除染に関わる作業員の被ばく管理については,空間線量率が2.5 µSv h−1を超える地域での作業を「特定線量下業務」と位置付け2.5 µSv h−1以下の地域で行われる「除染等業務」より手厚い被ばく管理がガイドラインで求められている10)。
除染作業者の被ばくの実態については,除染等業務従事者等被ばく線量登録管理制度を運営する(公財)放射線影響協会により集計値として発表されている。2021年4月から2022年3月までの4半期ごとの集計では,対象となる作業員59,047人に対し,最大でも1.8 mSv/3ヵ月かつ0.1 mSv/3ヵ月以下の作業員は17%とされており,低いレベルで管理されている11)。一方,これらの情報は,積算値の集計であり除染作業において,被ばくに影響を与える作業種や作業場の空間線量率などのファクターに関する情報は読み取れない。
除染作業に関わる被ばくに影響を与えるファクターについて解析した事例としては,東京電力ホールディングス㈱の社員を対象とした大規模調査がある12)。本調査は,2018年11月~2019年3月までに,東京と福島で勤務する社員約300名を対象に取得したGPSロガーの位置情報と個人被ばく線量計による積算被ばく量のデータを解析している。解析の結果,全体として,追加被ばく線量で年間1 mSv相当を超過した対象者は6名であり,屋内労働者の被ばく線量と比較して,屋外労働者の被ばく線量は有意に高いことが示された。一方,Bouville et al., 2006によると,チェルノービリ原子力発電所事故後,発電所から30 km圏内で除染作業に従事した作業員を対象に疫学研究を継続しており,作業種別の被ばく線量の差について解析が行われている13)。この解析では,作業ごとの被ばく線量の平均値で比較しているが,有意な差はなかったとしている。このような作業者の被ばく線量に与える因子を解析することは,国際放射線防護委員会(ICRP)勧告にもある放射線防護の基本的考え方である「合理的に達成可能な限り低く(As low as reasonably achievable)」14)を実現するための作業員に対する放射線防護プログラムの策定において,重要な情報になる。
本研究では,2020年7月~2021年3月までに福島県飯舘村の5エリアで行われた家屋解体および土壌表面の被覆などの線量低減措置に伴う作業において,全作業員の外部積算被ばく線量を取得するとともに,一部の作業員の区域内の行動履歴をGPSによる位置情報記録機器で記録した。データの解析には,除染ガイドライン等で推奨されている空間線量率から計算する被ばく線量計画の手法と実測した被ばく線量のデータを比較するとともに,作業エリアや作業員の職種ごとに統計的に解析し,その特徴を考察した。このような解析は,除染作業員の放射線防護に資するだけでなく,将来帰還する住民への被ばくに対する懸念の払しょくにつながると考えられる。
作業員の外部被ばく線量調査の対象とした作業は,内閣府原子力被災者生活支援チームの受託事業「特定復興再生拠点区域外における線量低減措置等の効果実証事業」で行われた家屋解体および線量低減措置作業とした。本事業では,飯舘村長泥地区において家屋の解体および土壌のコンクリート被覆等の線量率低減措置を実証するための事業であり,2020年7月~2021年3月までに実施された。対象場所について,Fig. 1に示す。現場作業を行ったのべ人員は2,243人/日であり,2021年1~3月までは積雪のため休工となった。作業場所は個人宅5ヵ所であり,すべての家屋には裏山の屋敷林を有している。各作業エリアの面積は300~800 m2程度であり,家屋の解体後200 m2程度の限定した区域について,砕石遮蔽,土壌の天地返し,反転耕,芝生遮蔽,アスファルト遮蔽およびコンクリート遮蔽による空間線量率の低減効果を実証した。
Table 1に作業工程と関連する作業員の職種について示す。作業員の職種については,土工(Work 1),解体工(Work 2),重機オペレータ(Work 3),運搬工(Work 4)および放射線管理員(Work 5)に弁別した。土工作業員は,作業場へのアクセス道路の整備,浸水土砂流出防止の措置および線量率低減措置を主に担当する。解体工は,家屋解体前の残置物撤去および家屋解体を行う。重機オペレータは,家屋解体で用いる油圧ショベルを中心に家屋解体から線量率低減措置までの作業が担当となる。運搬工は,家屋解体後の廃材や残置物などをトラックに積み込み移動する仕事である。放射線管理員は,解体や運搬の作業内容(作業工程)に関係なく日々のモニタリングが業務となるため,工程全体に関わることになる。
Procedure | Work types | ||||
---|---|---|---|---|---|
Earthworks | Demolition | Heavy equipment operator |
Carrier | Radiation control worker |
|
Work 1 | Work 2 | Work 3 | Work 4 | Work 5 | |
Owner's consent | — | — | — | — | 〇 |
Access road preparation | 〇 | — | 〇 | 〇 | 〇 |
Radiological survey | — | — | — | — | 〇 |
Removal of debris | — | 〇 | 〇 | — | 〇 |
Building Disintegration | — | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
Immersion soil sand outflow prevention | 〇 | — | 〇 | 〇 | 〇 |
Soil surface coverage (dose rate reduction) | 〇 | — | 〇 | 〇 | 〇 |
Radiological survey | — | — | — | — | 〇 |
作業場所の空間線量率については,GPS付の放射線計測器であるガンマプロッターを用いた15)。機器の校正については,JIS Z4333:2014「X線,γ線及びβ線用線量当量(率)サーベイメータ」に則って実施した16)。作業場の空間線量率は,1~2 m2に最低1点を目標としデータを取得し,取得したデータは5 m × 5 mメッシュごとに平均化した。
3. 被ばく管理のための被ばく線量測定機器作業員の被ばく線量管理には,シリコン半導体検出器を用いた積算線量計DOSEi(富士電機社製)を用いた。本線量計は作業場の近くにある仮設事務所で全作業員に貸し出され,貸出から作業を終了して事務所に返却するまでの積算線量を記録する。この線量計の目的は法令上の作業員の被ばく管理であり,作業場所や時間変化の情報は取得されない。
4. 位置情報付被ばく線量データの取得方法上記の作業員の被ばく管理用の線量計と同時に,作業場所や作業員の職種による解析を目的とし,1分ごとの積算線量を記録できるDOSEe nano(富士電機社製)を前節で区分けした5つの作業種ごとに1日3名程度をランダムに選定し,詳細なデータを取得した。位置情報については,DOSEe nanoに,市販のIOTデバイス(ビックローブ社製)のGPSと連動することで取得を可能とした。この,DOSEe nanoとGPSをリンクしたシステムを用いて,のべ2,101人/日の1日の作業における1分ごとの積算線量および作業員のGPSデータを取得した。なお,DOSEe nanoとGPSをリンクしたシステムは,Fig. 2に示すように大成建設が開発したシステムにより,マップ上で確認可能である。以下,作業員の被ばく管理用に使用したDOSEiのデータを「被ばく管理データ」,DOSEe nanoとGPSの対データを「位置情報付被ばく線量データ」と呼称する。
Location information display system using dosimeters with GPS
位置情報付被ばく線量データをもとに,以下のように解析するデータセットを作成した。
このようにして作成したデータを作業エリアおよび作業員の職種に分け平均化して1時間当たりの平均積算被ばく線量を求め,解析を行った。作業員の職種に1日の被ばくデータの例についてFig. 3に示す。このように,GPSデータで作業場と確認できたデータのみを抽出した。実際のデータでは図の例に示したように,電源をON後,仮設事務所内でノイズと思われる線量の上昇が確認された例が散見された。作業場所ごとの解析ではこのようなノイズの影響は排除している。抽出できたデータ数についてTable 2に示す。なお,作業エリア内に滞在する時間が10分以下であったデータについて除外した。
Examples of time series of daily exposure doses and data extraction
Work type |
Work area | |||||
---|---|---|---|---|---|---|
A | B | C | D | E | Sum | |
1 | 0 | 13 | 15 | 46 | 182 | 256 |
2 | 0 | 24 | 43 | 184 | 0 | 251 |
3 | 1 | 21 | 29 | 114 | 77 | 242 |
4 | 3 | 8 | 10 | 72 | 12 | 105 |
5 | 1 | 9 | 10 | 76 | 20 | 116 |
本論文において,被ばく線量の実測値から,天然の放射性核種によるバックグラウンドの減算は行っていないが,各作業場所の5点以上でin-situ Ge検出器を用いた30分間のγ線スペクトル測定をもとに評価した結果,Site Aで20~44 nGy h−1,Site Bで45~72 nGy h−1,Site Cで36~53 nGy h−1,Site Dで33~64 nGy h−1およびSite Eで34~122 nGy h−1であった。
6. 作業場の線量率をもとにした被ばく計画値の算出と実測値との比較作業計画時の線量評価と今回取得した実測データを比較するため,作業場の空間線量率と作業場における実際の滞在時間から予測積算被ばく線量を計算した。この際,空間線量率には,家屋解体や線量低減措置作業前の作業エリアごとの中央値を適用した。今後,本計算値を「計画値」と記述する。Fig. 3に計算した計画値の例を点線で示した。このように,GPSで作業場判定された時間に空間線量率を掛けて計画値とした。1時間当たりの被ばく線量(De)と計画値(Dp)の比較には下記の計算式(1)から計算できる相対偏差(RD)を用いた
\begin{equation} RD = (D_{p} - D_{e})/D_{e} \end{equation} | (1) |
式で示したように相対偏差が負の数値の場合は計画値の過小評価,相対偏差が正の数値の場合は計画値の過大評価すなわち安全側の評価となっていることになる。
測定例についてFig. 4に示す。図中に示した黒線枠は線量率低減措置の範囲であり,作業の効率や住民の主な行動場所を考慮して設定した。Fig. 4aに作業前の空間線量率分布およびFig. 4bに作業後の空間線量率を示したように,家屋解体や線量率低減措置により,空間線量率の低減が確認できる。
Example of a survey of air dose rates at 1 m from the ground
The circles show the measured data, colour-coded according to the average value within the mesh (5 m × 5 m).
全地点の5 mメッシュに集計した作業前後の空間線量率のヒストグラムをFig. 5に示す。空間線量率の最も高かったSite Cでは,中央値で3.4 µSv h−1であった。最も空間線量率の中央値が低かったSite Eでは,1.1 µSv h−1であった。それぞれのエリアについて,家屋解体や線量率低減措置により,中央値でエリアごとに33~69%の線量低減が確認された。
Histograms of air dose rates in the mesh before and after decontamination work at each measurement location
全作業員を対象にDOSEiを用いて取得した個人別の被ばく管理データの分布について,Fig. 6に示す。作業期間中における作業員別の最大の積算被ばく線量は1.1 mSvであり,中央値は0.16 mSvであった。
Cumulative exposure doses by worker during the work period
1日の被ばく管理データについて,作業時間は各々異なるため,積算被ばく線量を別途記録した作業時間で除して1時間当たりの被ばく量を時間単位に変換し,ヒストグラムにしてFig. 7aに示す。のべ5,275人/日のデータであり,1時間当たりの被ばく線量の中央値は0.55 µSv h−1であった。
Distribution of hourly doses for all workers and workers carrying GPS
被ばく管理データと同様に,DOSEe nanoで取得した位置情報付被ばく線量データを作業時間で1時間当たりの積算線量に変換し,ヒストグラムにして,Fig. 7bに示す。被ばく管理データと比較するとおおむね同様な数値分布が確認でき,中央値も0.64 µSv h−1と近似していた。
DOSEiとDOSEe nanoのデータの同一性を確認するため,両検出器を装着して1日の作業時間中に計測した結果をFig. 8で比較した。このように,両者はよい相関関係にある。これらの比較結果から,DOSEe nanoによって取得した抽出データは,作業全体の被ばく線量データの代表性を担保していると考えられる。
Comparison of external dose of working hour per day using DOSEi and DOSEe nano
作業員の職種ごとの解析の前に通常ルーチン的に行われる被ばく管理と計画値の課題を抽出するために,Fig. 7aに示した被ばく管理データにおける1日の1時間当たりの平均積算被ばく線量と,積算線量計の貸し出し時に記録した作業時間に対し作業員の申告した主な作業場所におけるFig. 5で示した作業場所の空間線量率の中央値から求めた計画値を比較した。比較には(1)式を用いて1日ごとの数値のRDを求め,作業場所ごとにFig. 9に示すヒストグラムを作成した。RDが負の数値となるいわゆる計画値が過小評価となる場合は,全体の16%ほどであった。管理上は,Fig. 7に示したように,1時間当たりの平均積算被ばく線量の大半が基準10)として示されている2.5 µSv h−1を下回っていることから適切な管理がされていたとしてよい。また,実際に行われている計画管理としては,最大の作業時間を仮定すること,作業場所の空間線量率の最大値を用いることにより本論文で定義した計画値よりもさらに安全側に設定されている。一方,全体の10%以上の計画値が実測値の5倍以上の数値となっている。また,作業場所別にみると分布の特徴に差はない。このような計画値と実測値の乖離には以下のような要因が考えられる。
Distribution of relative deviations between measured and planned doses for all workers
次節以降,位置情報付被ばく線量データを用いて上記の要因についてさらに詳細な解析を行った。
2. 作業場所別の被ばく線量の統計被ばく管理データには,作業開始前後のデスクワークや作業場までの移動等の被ばく線量が含まれており,特に前節で計画値と実測値の乖離の要因として考えられた1)および4)の影響を考察することができない。一方,位置情報付被ばく線量データは,II章5節の処理を行うことで,詳細な線量率の分布情報のある作業場所のみのデータに限定でき4)の屋内作業時の被ばく線量の影響を回避できる。なお,作業場所での作業は家屋解体や残置物撤去等若干の屋内作業はあったものの全体の作業としては,ほぼ屋外作業であったとしてよい。また,客観的なGPSの位置情報で作業場所を判別できることから1)の要因を回避できる。
位置情報付被ばく線量データから作業場所ごとに抽出した1時間当たりの被ばく線量の積算値を,Fig. 9で示した被ばく管理データと同様にヒストグラムにしてFig. 10に示す。このように中央値1.2付近を示す対数正規分布に近い数値分布が得られた。特に被ばく管理データでみられたような計画値が実測値の5倍以上の数値となるデータは2%程度となり全体的にばらつきが小さくなった。作業場所ごとに比較するとSite Bのデータが他のデータと比較してRDの数値が低い傾向にある。これは計画値と比較して実測値の過大評価の割合が低いことを示している。この要因としては,Site Bについて他の作業場所では確認されなった家屋の屋根からの雨水が集積する場所を中心に1 cm距離で30 µSv h−1を超えるいわゆるホットスポットが存在していたことが挙げられる。このような,周辺の線量率に対して明らかに線量の高い場所が存在する場合は,被ばく計画における配慮を必要とする事例と考えられる。
Distribution of standard deviations between measured and planned exposure doses measured by dosimeters with GPS
一方,全体として計画値は実測値に比べて過大に評価する傾向にあり,過小評価されたデータの割合は9%程度であることがわかった。これらの結果から,作業場所における空間線量率の中央値を用いて被ばく線量を計画する手法について全体的に実測値を過大に評価できること,RDの中央値が1.2であったことから計画値は実測値の約2倍となることがわかった。
3. 作業員の職種ごとの被ばく線量の統計位置情報付被ばく線量データには,前述したように作業種ごとに集計が可能である。Fig. 9で集計したデータについて,作業種ごとにRDの分布を箱ひげ図としてFig. 11に示す。また,過小評価を示すRDが負の数値となる評価例の割合を示している。
Distribution of relative deviations of measured and planned exposure doses for each type of work
作業種のRDの中央値は,Work 1,Work 3およびWork 5が1.1~1.4(計画値が被ばく線量の2倍以上),Work 4が2.1(計画値が被ばく線量の3.1倍)であった。一方,Work 2については,0.80(計画値が被ばく線量1.8倍)であった。さらに,作業種ごとのRDの数値群を総当たりでウェルチのt検定を行ったところ,Work 3,Work 5およびWork 1は有意差が認められず,Work 2とWork 4は他の作業種と有意差が認められた。最も計画値に近い数値を示したのはWork 2とした解体工であり,最も計画値に対し低い被ばく線量傾向であったのはWork 4とした運搬工であった。解体工は,Table 1で示すように主に敷地に残された残置物の撤去や家屋の解体などの線量低減措置前の作業が多く,他の作業と比較して線量が高い状態の作業場に滞在することが多かったことが他の作業種に比べ被ばく線量が計画値と近い原因と考えられる。一方,運搬工は作業で出た廃棄物などを車両で運搬する業務が主であり,車両などの遮蔽効果の影響で計画値より実際の被ばく線量が低い傾向となったと考えられる。同じ車両内での作業が多いWork 3とした重機オペレータについては,ショベルカーなど運転席の遮蔽効果が小さい車両が作業車両のメインとなっていることにより,運搬工よりも実際の被ばく線量が高い傾向になったものと考えられる。
計画値の過小評価を示すRDがマイナスを示した数値の割合について同図に青色の三角のポイントで示している。計画値から過小評価になった割合は,Work 3の重機オペレータ以外は20%以下であった。これは,実際に計画値を計算する際に考慮されない空間線量から実効線量への換算係数17,18)が実質的に安全係数として機能していることを示しており,作業場の空間線量率ベースで被ばく線量の計画値を作成する妥当性を示していると考えられる。
福島第一原子力発電所事故以来,多くの除染を目的とした作業が実施されてきたが,作業員の被ばくについては,必ずしも多くのデータが詳細に解析されてきたとはいい難い状況にある。本論文では,作業員が個人被ばく線量計と同時に携帯したGPSの位置情報をもとに,作業場の空間線量率や作業員の職種による特徴について解析を行った。今回の作業において,Fig. 6に示したように,作業期間中の作業員当たりの全被ばく量は最大でも1.1 mSvであり,問題のないレベルであった。また,空間線量率と実際の作業時間をもとに算出した計画値は,実際の被ばく線量に対し中央値で2倍以上となることがわかった。この要因は計画の際には,実質的に空間線量から実効線量への換算係数が安全係数として機能していることによる。一方,過小評価は全体の9%程度確認され,その多くが比較的空間線量の高い森林内での作業のケースが多いことがわかった。さらに,作業員の職種ごとに解析を行った結果,解体工の被ばく線量が計画値に比べて近い傾向にあり,この要因として作業場所の線量が低減する作業を実施する前の作業が多いことが挙げられた。本評価解析結果は,今後帰還困難区域の解除のために実施されると考えられる除染作業における作業員被ばく管理の最適化に資する。
本資料は,内閣府原子力被災者生活支援チームからの委託事業である「特定復興再生拠点区域外における線量低減措置等の効果実証事業」で取得されたデータを使用している。