抄録
気象庁の2014年の春季の黄砂日は5月25日から6月2日まで7日間連続のみであったが、九州地方から日本海側で約1週間にもわたる広域的な黄砂と越境大気汚染が同時に観測された。これは、中国内陸乾燥域で大規模な黄砂が連続的に2度発生し日本に到達後に、偏西風の蛇行でブロッキングされ東進速度の低下した高気圧下を黄砂と大気汚染エアロゾルが輸送されたために生じていた。この長期間継続した黄砂と越境大気汚染現象の詳細を、九州大学応用力学研究所 (福岡県春日市)を中心に設置された最新のエアロゾル測定装置と化学輸送モデルを統合的に用いて、その物理・化学的変化の特徴を捕らえた。GEOS CHEM化学輸送モデルは観測された硫酸塩濃度の変化をほぼ再現していたが、硝酸塩はモデル内のガス・エアロゾルの平衡過程と気象モデルに起因する問題があり日内変化の再現性が悪かった。モデルの感度解析をもとに越境寄与を評価し、硫酸塩の88%が越境寄与であることを示した。1時間分解能の観測から、粗大モードの硝酸塩が黄砂の飛来と同期して濃度が上昇し、日変化に高い相関が見られた。観測データを用いた統計的解析から、黄砂飛来のピーク時には全粒子状硝酸塩の約7~8割が越境寄与であることを示した。