HOxラジカルは対流圏オゾン(O3)の生成に深く関与する重要な化学種であり、その詳細な挙動解明はO3生成抑制のために不可欠である。都市域での観測研究は進んでいる一方で、人為起源と自然起源物質が混在する郊外地域では、OHラジカル反応性やO3生成レジームに関する知見は限られている。本研究では、2018年夏季に京都市で実施された集中大気観測(AQUAS-Kyoto)の測定データおよび化学輸送モデル(CMAQ)を用いて、郊外地域におけるOHラジカル反応性およびO3生成レジームの特性を評価した。観測期間前半は清浄な大気が支配的で、BVOCsが総OHラジカル反応性に大きく寄与した。一方、後半では都市域からの大気流入が影響し、反応性のおよそ半分が都市由来成分に起因することが示唆された。CMAQで計算されたBVOCsやO3濃度は観測期間を通しておおむね実測値を再現した一方、NO2といった人為起源物質の濃度は過小評価される傾向があった。CMAQの結果を用いたO3生成レジームの解析では、前半はVOC律速、後半はNOx律速の傾向が強まった。これは実測値と逆の傾向であった。本結果は、風向により多様な発生源の影響を受ける郊外地域では大気質が複雑であり、モデルによるO3前駆物質の濃度やO3生成レジームの判定結果に実測値と差異が生じやすいことを示している。本結果は大気質の改善およびCMAQの精度向上に寄与する知見と考えられる。
本研究では、より正確な年平均暴露濃度の算出と、簡易に多地点のモニタリングを行う手法の確立を目的に、誘導体化固相捕集–ガスクロマトグラフ質量分析法による大気中酸化エチレン、酸化プロピレンの測定法において、アクティブサンプリング法による1週間連続採取法とパッシブサンプリング法の適用性の評価を行った。採取ポンプを用いたアクティブサンプリング法において、1週間連続採取法と24時間採取法(24時間/回×連続7回)の並行試験を行った結果、両者に差異はなく、現行の有害大気汚染物質モニタリング手法を1週間連続採取法へ適用することが可能であった。また、市販のパッシブサンプラーによる環境大気測定への適用性を評価した結果、測定感度が不足していることがうかがえた。感度を向上させるため、新たに形状を変更したサンプラーを作製して適用性を評価し、環境大気で十分な測定感度が得られた。作製したパッシブサンプラーのサンプリングレートを算出したところ、酸化エチレンが0.00291 m3/h、酸化プロピレンが0.00248 m3/hとなり、市販のパッシブサンプラーにおけるメーカー設定値の2倍以上のサンプリングレートが得られた。