2024 年 60 巻 1 号 p. 1-10
PM2.5等の大気中の微粒子に含まれる無機成分のうち、硫酸塩に関する吸入毒性のデータは乏しい。酸性度と刺激性が高い硫酸水素アンモニウムは、呼吸器に比較的強い影響を及ぼす可能性が考えられることから、本研究では硫酸水素アンモニウムの健康影響、特に喘息症状への増悪影響を調べることを目的とした。動物実験では、BALB/c系マウスを用いて卵白アルブミン誘発性の喘息モデルを作出し、0、5および50 mg/m3の目標濃度で2週間の硫酸水素アンモニウムの反復吸入曝露を行った。病理組織検索、気管支肺胞洗浄液および遺伝子発現の分析結果からは統計学的に有意な喘息増悪作用は認められなかったものの、複数の評価項目でその傾向が認められた。また、A549細胞およびCalu-3細胞を用いて0.001から3 mg/mLの硫酸水素アンモニウムの液相での曝露を最長で24時間行った。その結果、炎症反応は惹起されないが、投与直後に一過性の活性酸素種の産生増強や細胞膜間結合力の低下が認められた。以上のことから、動物実験では統計学的に有意な変化は認められなかったが、高濃度の曝露では喘息増悪影響の可能性は否定できない。また、影響を与えるとすれば、in vitroの結果から酸化ストレスや上皮のバリア機能の低下等による可能性がある。