1985 年 20 巻 5 号 p. 342-348
大気中粒子状物質の抽出物 (タール) の細胞毒性をHeLa細胞のコロニー形成阻止効果によって調べた。40μg/mlの濃度でコロニー形成率が50%以下に低下するタール2件と80%程度に低下するタール2件について, 10μgの投与間隔で80μg/mlの濃度までのコロニー形成率の量反応曲線を求めた。その結果, 前者の毒性の強いタールでは0~30μg/mlまで著明な形成率の低下は認められなかったが, 50~80μg/mlでは対数的に減少した。この反応曲線は標的説によく合致すると思われた。標的説のパラメーターである外挿値は約270%, D0値 (中間致死量) は約20μg/mlであった。
大阪市内8ヵ所のモニタリングステーションで得られたタールのコロニー形成率を約2年間40μg/ml, 80μg/mlの2種の濃度について調べた。その結果, 地域による差はほとんど見られなかった。また投与濃度によってやや推移のパターンは異なり, 複数の投与濃度による測定が必要と思われた。測定期間中には40μg/mlの投与濃度でコロニー形成率が全ステーションで10%以下に低下する月が見られ, タールの毒性は時期によってかなり変動することが明らかとなった。
ひとつのステーションを選び, タールのSCE誘起性とコロニー形成率を比較した。コロニー形成率の対数値とS9 mix非存在下のSCE数との間には-0.9の高い負の相関が認められ, タールのHeLa細胞に対する標的はDNAである可能性を強く示唆した。