抄録
水銀とその化合物は, 高い蒸気圧を持つことから, 地球規模の循環に関して, 大気圏は重要な役割を演じている. 本総説では, 大気中および大気圏に密接に関係する環境試料中の水銀濃度とそれらの間の移動に関してこれまで得られている知見をまとめた.
地表付近の大気中総水銀のバックグラウンド値は2~3ng/m3で, そのほとんどはガス状水銀であるが, 上空や海洋大気中ではこれよも低値が報告されている. 他方, 都市大気中ではこれよりも高い値となっている.
大気中への水銀発生源は自然起源のものと人為起源のものとに大別できるが, そのいずれの発生源強度が大きいかは自然起源の発生源の測定が困難なことから, 明確とはなっていない.
大気中の水銀の主な除去過程は湿性沈着である. 降水中の水銀濃度は1~200ng/lと報告されている. ある点発生源より大気中に放出された水銀のわずか数%が発生源の近くに降下し, 大部分は広く拡散することが知られている.