抄録
大気汚染物質の中で粒子成分の生体影響, ことにディーゼルエンジン排出ガス中の粒子とアスベスト線維とについて, 文献的展望を行った。一般に有害ガス成分が, 急性一過性の作用を及ぼすのに対して, 粒子は肺内に沈着して慢性持続性の影響をもたらし, 惹起されうる疾患の種類も異なるといえる。
ディーゼル排出ガス中の粒子は, in vitroの各種実験で変異原性があるのが認められており, 粒子中に含まれる各種多環芳香族炭化水素化合物の中でも, ニトロピレンがディーゼルに特徴的な変異原物質として注目されている。in vivoの実験でも上皮DNAに損傷を与え, 上皮過形成から腺腫, さらには肺癌が発生しうることが報告されている。自動車道路沿道大気中の浮遊粒子状物質は, その数10%がディーゼル排ガス粒子に由来するとされ, その人の肺癌発生に占める意義が今後の大きな課題となる。
アスベストは, 近代工業化社会の環境大気中にはどこでも多少とも浮遊し, 都市生活者の肺には106以上のアスベスト細線維片が沈着している。職業性ばくろでは悪性胸膜中皮腫, 肺癌の多発が古くから知られており, 肺癌は喫煙と共に働くと著しく増加する。動物実験での成績もよくこれと一致しており, in vitroの研究ではアスベスト線維の吸着性と, 細胞膜傷害による発癌物質の核内とりこみの促進性が示されている。アスベストはディー・ゼル粒子と異なり, cocarcinogenicityの比重が大きいと考えられる。