1991 年 26 巻 4 号 p. 216-226
日本は, 冬季から春季の北西季節風が卓越する時期に, 中国大陸の風下にあたる。近年, 中国および韓国の諸都市は急速に工業化, 都市化が進み, 大気汚染問題が生じている。これら大陸都市において発生した大気汚染物質が季節風によって輸送され, 日本の大気質に影響を及ぼす可能性が考えられる。そこで東アジア地域における粒子汚染物質の長距離輸送現象を調べるために, 島根県松江市において大気エアロゾル試料を採取し, その成分分析結果から大陸都市の影響について検討を行った。大気エアロゾル中の成分組成比を韓国ソウル市のものと比較すると, 冬季の松江市における成分組成比はソウル市のものと類似し, 特にPb/Zn比は松江の夏季が0,22であるのに対して冬季は0.83となりソウル市での値と良い一致を示した。Pbは大陸都市において特徴的な有鉛ガソリン自動車から排出されるものであり, 松江市において冬季に観測された大気中Pbの一部は長距離輸送を起源とするものと考えらるれ.そこで拡散ボックスモデルにより長距離輸送の寄与を大まかに推定したところ, 松江市で観測された冬季のPb濃度の一部はソウル市からの長距離輸送による影響であると推定された。またTe/Se比により大陸都市の主要エネルギー源である石炭の燃焼排出物の影響を検討したところ, 同様に大陸都市の影響を受けている可能性が示唆された。