抄録
モミ (Abies firma Siebold et Zuccarini) の3年生苗の成長に対する人工酸性雨の影響を調べた。1991年5月8日から12月4日までの30週間にわたって, pH 2.0, 3.0, 4.0に調整した人工酸性雨 (硫酸と硝酸の混合液を脱イオン水で希釈した溶液, SO42-: NO3-=2: 1) および脱イオン水 (対照区, pH 6.7) を, 1週間に2回の割合で, 1回につき145mlずつ, モミ苗の地上部より散布した。
pH 2.0区ではモミ苗の葉に赤褐色の可視障害が発現したが, 他の処理区では同障害は観察されなかった。中間サンプリソグ時 (7月31日) では, いずれの人工酸性雨処理区における個体生重量も対照区に比べて有意に減少した。また, 同サンプリング時においては, pH 2.0区およびpH 3.0区における個体乾重量が対照区に比べて, それぞれ28%および20%減少した. 一方, 最終サンプリング時 (12月4日) では, pH 2.0区における個体生重量および個体乾重量が対照区に比べて, それぞれ23%および29%減少した。なお, モミ苗の相対成長率 (RGR) と純同化率 (NAR) は, 処理した人工酸性雨のpH低下に伴って低下した。また, 最終サンプリング時では, pH 2.0区のモミ苗の暗条件下における蒸散速度, 暗呼吸速度および葉中硫黄含量が対照区に比べて有意に増加した。
本研究の結果より, モミ苗は, pH 2.0のみならず, pH 3.0以上の人工酸性雨処理でも成長低下が起こることが明らかになった。したがって, モミは, 酸性雨の直接影響を比較的受け易い樹種であると考えられる。