大気環境学会誌
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冬季の東シナ海上空大気中のperoxyacetyl nitrate (PAN) および全窒素酸化物濃度
1997年12月, 1999年2月のIGAC航空機調査結果より
前田 淳坂東 博渡辺 征夫駒崎 雄一村野 健太郎畠山 史郎
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2001 年 36 巻 1 号 p. 22-28

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抄録

東アジア地域の産業活動の増加に伴い, 放出量の増加が懸念される大気汚染物質が, 西部太平洋縁辺域の大気の化学的性質に与える影響を調査することを目的として, 環境庁の地球環境研究総合推進費に基づき, IGAC (lnternational Global Atmospkeric Ckemistty) 調査が行われてきた。本論文では, 1997年12月および1999年2月のIGAC調査の一環として, 東シナ海上空で実施された航空機観測による観測項目のうち, peroxyacetyl nitrate (PAN) と全窒素酸化物 (NOy) の測定結果について報告する。
PAN濃度 (平均値± 標準偏差) は0.088±0.053ppbv (1997年12月9, 12および13日), 0.56±0.50ppbv (1999年2月2, 4および6日) であった。1997年におけるPAN濃度は, これまでのIGAC調査の中で最も低い濃度レベルであり, PAN/NOy比に関しても, 数%の値であった。また1999年の調査では, 2月2日の結果を除き, PAN濃度は0.08-0.48ppbvの範囲内に分布し, PAN/NOy比は14%-85%であり, 同じ地域を対象としたこれまでの観測結果の濃度レベルと差異はなかった。
NOy濃度については, 1999年2月2日の結果を除き, 0.20-3.0ppbvの範囲内に分布し, これまでの東シナ海上空での観測結果と一致した。1997年度の観測では, 高度約2500mにおいて, 日本から離れるに従って著しいNOy濃度の上昇が観察された。これに対して, 海洋境界層内高度である約900m以下のデータにはこのような増加の傾向はみられなかった。これは, アジア大陸からの汚染大気が境界層を超えて自由対流圏を通して日本周辺に運ばれてきている可能性を示唆している。
1999年2月2日のPAN, NOy濃度は低高度・高高度を問わずかなりの高濃度を示し, それぞれの最高値は1.6ppbv, 7.1ppbvであった。これまでのIGAC調査で実施された観測では, 海洋境界層の中であってもNOy濃度が4ppbvを超えることはなかった。これは, フライト前日から当日にかけて本州の南岸を通った低気圧の影響で, 大陸からの汚染大気が短時間のうちに輸送されてきた可能性が考えられる。

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