大気環境学会誌
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多環芳香族炭化水素類による大気汚染特性
久保 隆小野 敏路浦野 紘平
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2002 年 37 巻 2 号 p. 131-140

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抄録

大気中に存在する多環芳香族炭化水素類 (PAHs) の濃度の時間的な変動やそれらのPAHsの組成比といった特徴を明らかにし, PAHsの適切な管理に役立つ知見を得るために, WHOで発がん性のユニットリスクが示されており, U.SEPAで測定方法が定められている6種類のPAHsの大気中濃度を道路からの距離を変えて交通量の多い交差点, 住宅地, 山間部の3地点で24時間捕集を行って測定した。
その結果, 測定した交差点と住宅地での大気中PAHsの24時間捕集濃度が1週間でそれぞれ8-20倍, 20-50倍も変動し, 住宅地での大気中PAHs濃度は年間に60-90倍程度変動したことから, 年に数回の測定ではPAHsによる大気汚染を正確に把握できないことが明らかとなった。また, 夏期よりも冬期の方が高濃度になるが, 6PAHsの組成比はBbF≧IcdP>BaP≧BaA≧BkF>>DahAで季節が変わってもほぼ一定となり, 各PAHの大気中での相対的な濃度低下の程度は年間を通して大きな違いはないことを明らかにした。
測定した3地点の濃度を比較すると, 交通量の多い交差点に比べて住宅地では1/2-1/4程度, 山間部は1/8-1/30程度となり, 道路や各種の燃焼・焼却施設等からのPAHsが広範に拡散して影響を及ぼしていることを示した。また, これら3地点の6PAHs組成比より, BaAは他のPAHsよりも大気中で分解等の反応が起こりやすいことが示唆された。
大気中6 PAHsによるリスクに対する寄与は, BaP>>DahA>lcdP≅BbF>BaA>>BkFの順に大きく, BaPの寄与が特に大きいことを明らかにした。また, 測定した交差点や住宅地では, 大気中6 PAHsによる発がんのリスクが10-5を大きく超えるレベルであり, また, 測定した山間部でもそのリスクが10-5レベルである可能性を明らかにした。
これらにより, 早急に正確かつ効率的な長時間捕集などによるモニタリングを行い, PAHsの環境基準の設定や各種の発生源対策を実施する必要があることを示した。

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