大気環境学会誌
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フッ化水素ガスの植物の生育に及ぼす影響 (I)
フッ化水素ガスの水稲の生育に及ぼす影響
進藤 三幸
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2002 年 37 巻 4 号 p. 245-255

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抄録

アルミナ電解工場から排出されたフッ化水素ガスが, 水稲の生理並びに生育, 収量に与える影響について調査した。障害を受けた水稲は全窒素含量の増加, カルシウム含量の減少が認められ, 障害の程度の大きいものほど稲わらのケイ酸含量が多いことも認められた。稲わらのフッ素含量が多いものほど米糠のフッ素含量も多いことから, 水稲体内に取り込まれたフッ素の一部は養水分とともに体内を移行し米糠部分へ集積したものと推察した。
水稲の可視障害は, 葉身が葉舌のところから垂下し, 同時に葉身の先端や葉縁部が緑色から灰緑色に退色し, 次第に全葉身におよび, 褐変, 枯死に至るものであった。障害を受けた水稲は, 草丈は短く, 茎数は減少し, 出穂期の遅延も認められ, 葉鞘の澱粉蓄積量も減少した。収穫期には, 障害を強く受けた水稲ほど, 一穂当たりのもみ数も減少する傾向が認められ, これは, 頴花分化期にフッ素の障害を受けた結果と推察された。大気中のフッ化水素ガスが収量の低下に影響したことは明らかであり, その限界濃度は, 8月下旬の葉身のフッ素含量で70μg/g前後と考察した。
石灰ろ紙法によるデータから導かれたフッ素集積量と水稲葉身のフッ素含量の関係から, 水稲葉身のフッ化水素ガスの吸収率は0.051と推定され, 1968年の水稲に障害を与えた大気中のフッ化水素ガス濃度は激甚障害地で0.04ppm前後と推定した。

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