抄録
日本における石積型の棚田の分布域の東部に位置する北山の棚田(静岡県沼津市)を対象に、その成立要因や維持要因を検討するため、石積の分布と素材、維持・崩壊状況、及び棚田跡地の土地利用状況の変化についての実態調査を行った。新田集落のかつての棚田の北側部分を調査範囲として悉皆調査を行った結果、耕作放棄地や他の作付け転換地も含め、石積が計四〇二箇所確認され、大半は複輝石安山岩が用いられていた。かつては全域に石積の水田が広がっていたが、現在耕作される水田は四%と僅かであり、その多くはシキミ畑に転換されていた。また、棚田跡地の三三%が休耕地・管理放棄地であり、植生遷移が進み樹林化した場所も一〇%強認められた。しかし、維持/崩壊状況の確認では、崩れなし~軽度の崩れが八五・三%と比較的良好に維持される石積が多い結果であった。これには硬い安山岩で精緻に組まれ、また現在もシキミ栽培も含め耕作管理されていることが反映していると考えられた。表層地質的には風化が進み脆い井田火山由来の安山岩と石積には不向きな条件であるにも関わらず、その成立要因には達磨火山とその馬蹄型カルデラの中央部に棚田が位置することで周囲から硬質の安山岩が供給されたことが強く関与していた。