抄録
恒常的に消化管の内容に暴露された胆道上皮にいかなる変化がおこるかを調べるため,ラットを用いて,消化酵素の作用を強く受ける総胆管空腸吻合モデル6例と,細菌感染の影響の強い総胆管大腸吻合モデル5例を作製し,20カ月を経過した長期生存例について,さきに報告した6カ月後の所見と比較して胆道系の病態生理を検討すると共に,総胆管上皮の超微細構造を含む形態学的変化を観察し,以下の成績を得た.血液生化学では両実験群とも,GOT,LDHが上昇し,慢性胆管炎がみられた.総胆管内アミラーゼ値は総胆管空腸吻合群がもっとも高値を示し,総胆管内細菌については,特に総胆管大腸吻合群に嫌気性菌を含む混合感染が認められた. 病理形態学については, 両吻合群共に6 カ月後の所見と比較してさらに著しい総胆管の拡張がみられ,その内容物に脂肪酸カルシウムを主成分とする結石を認めた.光顕の組織学的所見では,総胆管空腸吻合群の6カ月後には総胆管上皮の剥離が主であったものが,総胆管上皮の過形成が大部分を占めるようになり,一部に剥離,腸上皮化生,異型性が認められた.また,総胆管大腸吻合群では全域が大腸粘膜類似の過形成上皮で被われ,上皮の脱落や異型性は認められなかった,さらに,その胆管上皮細胞の微絨毛を電顕で観察すると,総胆管大腸吻合群の微絨毛は総胆管空腸吻合群のそれに比し,数,丈ともに有意に大きかった.これらの所見から,環境因子や時間の経過が,胆管上皮の過形成,腸上皮化生,異型性,剥脱に大きく関与していることが示唆された.