谷本学校 毒性質問箱
Online ISSN : 2436-5114
〈特集1〉医薬品の安全性試験 教科書から学べないもの
5. 主に医薬品の毒性試験に用いられる媒体について
宮内 慎川村 祐司服部 亜樹子
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2010 年 2010 巻 12 号 p. 45-50

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抄録

 近年、医薬品の候補化合物は難水溶性化合物が多くなっている。その原因として、コンビナトリアルケミストリーによる自動合成やハイスループットスクリーニング(HTS)の導入、合成技術の向上による化合物の複雑化・高分子量化などが指摘されている1,2)。難溶性化合物は経口製剤においては吸収性の低下や投与量の増大、注射剤においては安全性の低下が課題となるため、溶解度や溶解速度を高め、溶出特性を改善する様々な試みがなされている。溶出特性を改善する方法としては、塩酸塩などの可溶性の塩の調製、プロドラッグ化、油性の基剤や界面活性剤による可溶化、微粒子化・微細化による表面積の増大、固体分散体などの非晶質化、ミセル、包接複合体などがある。これらの方法の詳細については多くの論文やレビューがあるので参照されたい3-7)

 創薬初期の段階では化合物の量が限られているため、製剤的な検討による溶出特性の改善は難しい。従って、様々な溶媒を用いることによって難溶性化合物を溶解させて試験を行うことが多い。このような溶媒としては、ジメチルスルホキシド(dimethyl sulfoxide、DMSO)が代表的なものであり、難溶性の化合物を溶解し投与するには良く使用されることが知られている。しかしながら、この有機溶媒などは、比較的低用量で短期の薬理試験では使用可能であっても、高用量の被験物質を投与する必要がある毒性試験では、より高濃度または高容量の有機溶媒を用いざるを得ず、その場合には有機溶媒の影響が発現してしまい、被験物質の正しい毒性評価に影響を及ぼす可能性が大きい。その一方で、過去の使用実績が少ない溶媒を選択することは、溶媒自体が生体に与える影響を評価するための背景データが不足していることから、毒性試験で得られた所見が被験物質の影響であるかどうかを評価することが困難になるケースも想定される。

 このように被験物質となる化合物の毒性を正しく評価するためには、媒体の特性や生体への影響を理解し、化合物の反応と媒体の変化を区別することが必要となる。本稿ではQ&A方式で媒体の原則や設定の基準、媒体の影響について整理した。毒性試験を実施する際の媒体の選択の一助となれば幸いである。

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© 2010 安全性評価研究会
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