谷本学校 毒性質問箱
Online ISSN : 2436-5114
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谷本学校 毒性質問箱
選択された号の論文の18件中1~18を表示しています
はじめに
SEND
  • 佐藤 玄
    原稿種別: その他
    2021 年 2021 巻 23 号 p. 1-6
    発行日: 2021/09/16
    公開日: 2022/09/17
    解説誌・一般情報誌 フリー

     最近、データ駆動型創薬(data-driven drug discovery/development)という言葉をあちこちで耳にするようになった1-4)。同じ非臨床領域のうち、薬理や薬物動態のデータは何となく応用できそうな気はするが、毒性試験の電子データも使えるのだろうか。私はいわゆるデータ専門家ではないが、ここ数年、Clinical Data Interchange Standards Consortium(CDISC)の開発した非臨床のデータ標準であるStandard for Exchange of Nonclinical Data(SEND)に関する業務に携わるうちに、素人なりにデータについて考える機会を得た。

     規制対応要件としてのSEND作成作業では、Food and Drug Administration(FDA)に受け取り拒否されないことが最も重要である。実質的に世の中に存在するSENDデータのほとんどを作成しているContract Research Organization(CRO)の多くでは、FDAから五月雨式に発出される様々なルールに対応すべく莫大な労力を払っていることが、本特集号を読んでも明らかである。しかし、本質的な目的は「FDAに拒否されないこと」ではなく、「FDAが使いやすいデータを作ること」ではないだろうか。規制当局は審査業務の効率化・高質化にデータを使いたいと考えており、そのために作成ルールを設定している。立場は異なるが、製薬メーカーでもSENDデータを用いて毒性評価や創薬活動を行いたいと考えた時には、その目的に応じたデータの格納方法や、用語の統一等を考えるであろう。すなわち、規制当局対応であっても、社内外でのデータ利活用であっても、「使いやすいデータ」を目指して作成すべきであるという点において根っこは同じである。

     本稿では、私のSENDとの出会いについて紹介し、SENDは標準データであるにもかかわらず作成者による相違(バラつき)の発生する余地があり、バラつきの本質を暴くために外部コンソーシアムで格闘したこと、そして、そうした経験に基づく使いやすいデータについての考えを述べる。さらに、媒体名の標準化に向けた事例を紹介した後、冒頭で出てきた「データ駆動型創薬」へのSENDデータの応用について私見を述べる。SEND作成業務に直接関係しない方々にもきっと興味を持っていただける内容と自負している。

  • 諏訪 浩一
    原稿種別: その他
    2021 年 2021 巻 23 号 p. 7-12
    発行日: 2021/09/16
    公開日: 2022/09/17
    解説誌・一般情報誌 フリー

     毒性試験のデータを規制当局(FDA)に申請する場合、SEND1)データパッケージを作成することが必要となる。毒性試験自体は「毒性試験法ガイドライン」に従って各種検査を行い、評価することになるが、一般的に利用されてきた検査の名称や単位などは必ずしもSENDに規定されたものとは整合しない。

     本稿では、SENDデータパッケージを本格的に作成し始めた現状を踏まえて、今後どのように生データを採取・記録し、SEND作成時に必要となる情報を試験計画書や最終報告書にどのように記載していくべきかを述べる。

  • Erin Tibbs-Slone , Audrey Walker
    原稿種別: その他
    2021 年 2021 巻 23 号 p. 13-17
    発行日: 2021/09/16
    公開日: 2022/09/17
    解説誌・一般情報誌 フリー

     The Standard for Exchange of Nonclinical Data (SEND) is the non-clinical implementation of the Study Data Tabulation Model (SDTM) developed and maintained by the Clinical Data Interchange Standards Consortium (CDISC). SEND provides a framework for standardized electronic representation of individual study data endpoints, which enable the efficient exchange of data between organizations. Standardized SEND data makes it possible to design tools for data visualization, data analysis and data warehousing. It allows single-study and cross-study analytics. SEND increases the quality and efficiency of scientific review for regulatory submissions.

     As a full-service Contract Research Organization (CRO), Charles River Laboratories (CRL) has been involved in the development and implementation of the SEND standard since 2001 and continues to be an industry leader, with team members taking active leadership and volunteer roles in both the CDISC and Pharmaceutical Users Software Exchange (PHUSE) organizations.

  • -SENDデータ作成において生じる課題と対応事例-
    堀川 真一
    原稿種別: その他
    2021 年 2021 巻 23 号 p. 18-21
    発行日: 2021/09/16
    公開日: 2022/09/17
    解説誌・一般情報誌 フリー

     米国FDAへの新薬申請において、SENDフォーマットの非臨床試験データの提出が義務化され、申請者である製薬メーカーだけでなく、我々CROも積極的にSENDに取り組んでいる。イナリサーチでは、2014年にCDISC Registered Solution Providerであり、世界で唯一IT Solution ProviderとしてGLP認証されているPDS社(Pathology Data Systems Ltd.)とSEND基本契約を締結し、米国の最新情報の共有や実践的なノウハウを得ることでステップアップを続けてきた。2015年には、PDS社との共同プロジェクトで作成したSENDデータのFDA予備申請を成功させる等、PDS社とは良好なパートナーシップを築いている。

     また、2018年には社内にSEND対応の専門部門(データ標準化推進部)を設立し、SEND関連業務のキャパシティを拡大し、サービス内容を充実させるとともに、入手した情報や検討結果は、積極的に外部発表を行ってきた。主要な発表資料は、イナリサーチのホームページに掲載しており、機会があれば参照いただきたい。

     さて、本稿では、イナリサーチのこれまでの経験を踏まえて、SENDデータ作成のタイムラインとそのポイントに加え、SEND作成において生じる様々な課題とその対応事例についてまとめる。

  • Megan Bausman
    原稿種別: その他
    2021 年 2021 巻 23 号 p. 22-26
    発行日: 2021/09/16
    公開日: 2022/09/17
    解説誌・一般情報誌 フリー

     The story of the Standard for Exchange of Nonclinical Data (SEND) began in the late 20th century, when industry guidances about electronic regulatory submissions were issued by the United States Food and Drug Administration (US FDA) and the International Conference on Harmonisation [(ICH), now recognized as the International Council for Harmonisation]. These documents and subsequent supporting guides contain details and specifications for electronic submissions, including settings for portable document format (PDF) documents and SAS Transport Files and the order for arranging the submission content 1,2). In the early 2000s, electronic data capture systems were rudimentary when compared with the capabilities of today's software, and many data types were recorded on paper. The effort involved in preparing just the tumor.xpt, the pioneer for the SEND concept, was enormous 3). The tools available at the time were not sophisticated enough to trace a palpable mass and its measurements noted during inlife to the observations recorded at necropsy and finally to correlate with the pathologist's findings and diagnoses. Now, over 20 years later, and with the introduction of multiple new guidances and guides, rule sets, official versions, and effective dates, the idea of data presented in a standardized format has moved from reluctant adoption to acceptance and even to expanded use beyond a regulatory submission.

  • 山本 大, 山下 弘太郎, 矢ヶ部 康子, 高橋 一彰, 可徳 小四郎, 坂本 陽人, 大竹 誠司
    原稿種別: その他
    2021 年 2021 巻 23 号 p. 27-29
    発行日: 2021/09/16
    公開日: 2022/09/17
    解説誌・一般情報誌 フリー

     非臨床試験データを米国FDAへ提出するためにCDISC(Clinical Data Interchange Standards Consortium)標準であるSENDに準拠した電子データの作成が必要不可欠になることを受け、LSIM安全科学研究所(安科研)鹿島研究所でも2014年にSENDデータ作成のための体制構築に着手した。この間、安全性試験システムが切り替わり、データの取得方法が大きく変わることもあったが、我々は一貫してSENDデータを試験の生データや帳票と同じように扱うこととし、研究部門のスタッフが中心になってSENDデータを作成する体制を構築してきた。現在、SENDIG v3.1に準拠した形で、一般毒性試験、がん原性試験、そして安全性薬理試験のSENDデータ作成を行っている。

     これらの経験を踏まえ本稿では、自社におけるSENDデータ作成のフローやポリシー、作成上の注意点等について紹介したい。

  • 橋口 晃一
    原稿種別: その他
    2021 年 2021 巻 23 号 p. 30-31
    発行日: 2021/09/16
    公開日: 2022/09/17
    解説誌・一般情報誌 フリー

     当社では2016年4月より非臨床試験データのSEND化サービスを開始したが、SEND化対象試験は年々著しく増えている。

     本稿では、当社のSEND化サービスの概要、契約から作成までの流れ、ならびに、これまでの経験を基に、非臨床試験のSEND化の現状や今後について記述する。

マイクロサンプリング
  • 斎藤 嘉朗, 田中 庸一, 齊藤 公亮
    原稿種別: その他
    2021 年 2021 巻 23 号 p. 32-36
    発行日: 2021/09/16
    公開日: 2022/09/17
    解説誌・一般情報誌 フリー

     非臨床試験におけるトキシコキネティクス(TK)試験は、投薬量と全身曝露量との関連性検討、被験薬の濃度及び分布と各臓器における毒性所見との関連性検討、さらにはヒトにおける副作用発現のリスクを推定する上で、重要な意義を有する。TK試験に関する行政指針としては、医薬品規制調和国際会議(以下「ICH」)において、ICH S3Aガイドラインが1994年に合意され、本邦では1996(平成8)年に「トキシコキネティクス(毒性試験における全身的暴露の評価)に関するガイダンス」1)として発出されている。

     従来、TK評価を行うにあたり1時点当たり200 μL程度という多くの採血量が必要であり、血液量が少ないげっ歯類では、採血による毒性影響が懸念されることから、毒性評価を行う主試験群の動物以外に、TK評価を行う採血用のサテライト動物群の設定が必要であった。しかし、欧米に加え、本邦でも「動物の愛護及び管理に関する法律」において、「できる限りその利用に供される動物の数を少なくすること等により動物を適切に利用することに配慮するものとする。」と規定される等、動物福祉に配慮した動物実験が求められている。さらには質量分析装置等の機器分析における感度の上昇により、少量の血液試料で、薬物濃度の測定が可能となってきた。すなわち、マイクロサンプリングと呼ばれる少量の採血を行うことにより、サテライト動物数を減らすこと、さらには主試験群動物でのTK評価を行えば毒性評価値と曝露量を個体ごとに評価しうることから、マイクロサンプリングをTK評価に導入する動きが高まりをみせた。

     以上の背景から、ICHにおいて2014年6月に、S3Aガイドラインにおけるマイクロサンプリングに関するQ&A作成が決定された。同年10月にコンセプトペーパーとビジネスプランが承認され、さらに同年12月に日本がラポーターを務めるImplementation working groupが発足した。1年半の議論の後、2016年5月にStep 2b案が公開され、各極でパブリックコメントを募集した。世界から寄せられた計189のコメントを基にQ&A案の修正を行い、2017年11月にICH総会にて承認され、最終化された。同内容は、日本語訳の上、2019年3月に厚生労働省医薬・生活衛生局医薬品審査管理課からの事務連絡「「トキシコキネティクス(毒性試験における全身的暴露の評価)に関するガイダンス」におけるマイクロサンプリング手法の利用に関する質疑応答集(Q&A)」2)として発出された。同Q&Aは、2021年3月現在、米国、欧州、カナダ、シンガポール、スイス、中国、台湾でも、国内(または域内)向けに発出されている。

  • 宅見 あすか, 服部 則道
    原稿種別: その他
    2021 年 2021 巻 23 号 p. 37-44
    発行日: 2021/09/16
    公開日: 2022/09/17
    解説誌・一般情報誌 フリー

     非臨床安全性試験におけるトキシコキネティクス(toxicokinetics: TK)評価は、開発候補化合物の全身曝露と毒性の関係性を解析するための重要な意義を有している1)。TK評価では被験物質投与後の実験動物から経時的に血液を採取して血中化合物濃度分析結果に基づく曝露解析が実施されるが、毒性試験で汎用されるげっ歯類では循環血液量が限られるために、毒性試験群からの採血ではなくサテライト群を設け、当該群における血中濃度の推移を確認することが従来的に行われている。かたや近年の理化学分析技術の発達に伴って少量の血液で精度高く濃度を定量することが可能となり、毒性試験群からの微量採血(通称、マイクロサンプリング)をTK評価に利用することが推奨されている2)。この利点として、個体あたりの総採血量を抑えることによる動物の苦痛軽減(Refinement)、TK評価用に別途使用する動物を減らす、あるいはなくすことによる使用動物数の削減(Reduction)といった動物実験の3Rsへの寄与に加え、安全性に関するデータと曝露との関連を同じ動物で評価できるという毒性評価上のメリットに期待がもたれている。また一方で、毒性試験群からの採血操作が毒性評価あるいはTK評価に与える影響について情報が限られることが、特に申請用資料として用いられるGLP試験でマイクロサンプリングの適用を躊躇する要因の1つになっており3)、我々は毒性試験で最も一般的に使用される動物種であるラットを用いて、毒性評価及びTK評価に与える採血の影響の明確化に取り組んでいる。

     本稿ではラットの標準的な反復投与毒性試験を想定した条件下で、経時的な連続採血が一般毒性評価指標に与える影響、またマイクロサンプリングを適用することで選択の幅が広がる採血部位がTK評価に与える影響について、既知の知見とともに実験的に検証した結果を紹介する。さらに、毒性試験への組み込み時に考慮すべき技術的な観点や、化合物開発の過程でのマイクロサンプリングの活用場面にも考察を展開して論じたい。

  • 大塚 博比古
    原稿種別: その他
    2021 年 2021 巻 23 号 p. 45-51
    発行日: 2021/09/16
    公開日: 2022/09/17
    解説誌・一般情報誌 フリー

     一般的には50 µL以下のごく微量の血液を採取する手法をマイクロサンプリング法とよび、近年分析法の感度の向上によって当該技術を血漿/血液中薬物濃度評価すなわちトキシコキネティクス(TK)評価に応用することができるようになってきた。実施にあたっては、外頸静脈及び尾静脈など反復採血が可能な部位であれば特に制限はない。採血時のロスや抗凝固剤の添加量などによって直接TKデータに影響を及ぼす可能性もあるため、定量性の精度も考慮しながら針植え込み式のシリンジ、翼付き採血針とヘマトクリット毛細管を組み合わせた器具、あるいは専用に開発されたマイクロサンプリング用デバイスなどの工夫された器具を用いることも必要である。2017年11月に医薬品規制調和国際会議(ICH)より「QUESTIONS AND ANSWERS TO ICH S3A: NOTE FOR GUIDANCE ON TOXICOKINETICS: THE ASSESSMENT OF SYSTEMIC EXPOSURE IN TOXICITY STUDIES1)」が出され、それに続いて2019年3月に厚生労働省から同内容のものが『「トキシコキネティクス(毒性試験における全身暴露の評価)に関するガイダンス」におけるマイクロサンプリング手法の利用に関する質疑応答集(Q&A)について2)』として出された。これにより、本邦でもマイクロサンプリング法を導入したげっ歯類の毒性試験の実施に対する動きが進んでいる。

  • 宅見 あすか, 藤澤 希望, 原田 聡子, 重見 亮太, 鈴木 慶幸, 藤田 卓也
    原稿種別: その他
    2021 年 2021 巻 23 号 p. 52-56
    発行日: 2021/09/16
    公開日: 2022/09/17
    解説誌・一般情報誌 フリー
心血管系安全性評価
  • 吉永 貴志
    原稿種別: その他
    2021 年 2021 巻 23 号 p. 57-62
    発行日: 2021/09/16
    公開日: 2022/09/17
    解説誌・一般情報誌 フリー

     2018年12月に開催された安全性評価研究会・冬のセミナーで講演した。講演を依頼された背景としては、当時(そして現在も)、私がICH E14/S7B Implementation Working Group(IWG)の日本製薬工業協会トピックリーダーとして議論に参加しているからであると理解している。このICH E14/S7B IWGは、E14 Q&Aを作成するために2005年に設立されたICH E14 IWGの活動が継続している状況で、2013年にFDAから提案されたComprehensive in vitro Proarrhythmia Assay(CiPA) initiative1)をきっかけにICH E14/S7B Discussion Group(DG)が設立され、その後2018年に開催されたICHシャーロット会議を経て設立された。IWG発足のきっかけになったCiPAは、臨床における催不整脈リスク評価を非臨床の複数試験データを用いた統合的判断によって実施することを目的としてCardiac Safety Research Consortium/Food and Drug Administration/Health and Environmental Sciences Institute(CSRC/FDA/HESI)の合同会議の場で提案された。会議ではICH E142)及びS7Bガイドライン3)の施行以降の状況の総括が背景として提示され(表1)、総合的に判断した結果として、ICH E14の廃止とICH S7Bの改定が提案された。ポイントとしては、QT延長そのものを評価するのではなく、催不整脈リスク、特に重篤な心室性不整脈であるTorsade's de pointes(TdP)の発生リスクを評価するべきである、という明確なメッセージであった。現ICH S7BにQT延長に関する非臨床試験の進め方の概念図が示されているが(図1)、これには明示されていない(1)複数の心筋イオンチャネル阻害データによるアセスメント、(2)in silicoモデルによるリスク予測、(3)ヒトiPS細胞由来心筋細胞を用いた評価など、複数の非臨床試験結果を用いた統合的リスク評価の有用性がCiPAから提案された。なお、本稿でいう心毒性とは、QT延長に伴い発生するTdPの催不整脈性に焦点を当てている。

AI技術
  • 中尾 悠基
    原稿種別: その他
    2021 年 2021 巻 23 号 p. 63-67
    発行日: 2021/09/16
    公開日: 2022/09/17
    解説誌・一般情報誌 フリー

     研究開発現場では光学顕微鏡を用いて多岐にわたる画像データを取得し、目的に応じたデータ分析、データ解析手法が求められる。画像データに対してはImageJをはじめとするデジタル画像処理技術が用いられるが、技術の進歩に伴い従来の演繹的アプローチでは目的を達成することが困難な事案が多数存在する。本稿では画像処理と深層学習(ディープラーニング、以下DLと称する)処理アプローチの違い、DLを用いた画像データへのアプローチと気を付けるべき項目、及びボトルネックポイントを記載する。DLの歴史やアルゴリズムの詳細については他書に記載が多いことから、本稿では割愛することをあらかじめ断っておく。

臨床検査
  • 奈良岡 準
    原稿種別: その他
    2021 年 2021 巻 23 号 p. 68-71
    発行日: 2021/09/16
    公開日: 2022/09/17
    解説誌・一般情報誌 フリー

    -臨床病理検査について-

    1.1 臨床病理検査の成り立ち

     臨床病理検査は、古くはギリシャ時代から尿の観察に始まり、以降体の異常を非侵襲的に知るための方法として行われてきた。安全性試験における臨床病理検査は、1960年代以降臨床病理学を主体にヒトの体外診断薬や装置を動物へ用いることから始まった。その後、1990年代になり本邦では日本製薬工業協会 医薬品評価委員会 基礎研究部会のタスクフォースや日本臨床化学会 動物臨床化学専門委員会を中心に、アメリカでは米国臨床化学会(American Association for Clinical Chemistry: AACC)の動物臨床化学部門(Division of Animal Clinical Chemistry: DACC)と米国獣医臨床病理学会(American Society of Veterinary Clinical Pathology: ASVCP)を中心に、安全性試験における臨床病理検査のハーモナイゼーション(The International Harmonization of Clinical Pathology teating: IHCPT)1)などが国際的に行われ、現在の標準測定項目に至っており、臨床病理学に関わる多くの先人のご尽力により、現在の臨床病理学が体系化されてきた。

     さらには2000年以降オミクス研究や解析技術が進み、薬剤性腎障害のバイオマーカー2)がFDA、EMA、PMDAにより医薬品開発における安全性試験において利用が認められ、非臨床から臨床で使用可能な副作用バイオマーカーを産官学連携により研究開発する機運が高まってきている。

     臨床病理、臨床検査などの呼び方があるが、一般的に臨床検査は画像検査や生理機能検査などが含まれた検査を示すことから、非臨床安全性試験における血液、尿の生体試料を用いた検査は、臨床病理検査と呼んで区別しており、IHCPTなど海外でもClinical Pathologyと呼ばれていることから、本稿では臨床病理検査とする。

  • -申請資料における事例と解釈-
    辻 暁司, 甲田 章, 梶田 晋平, 鈴木 裕太, 南谷 賢一郎, 宮内 慎
    原稿種別: その他
    2021 年 2021 巻 23 号 p. 72-80
    発行日: 2021/09/16
    公開日: 2022/09/17
    解説誌・一般情報誌 フリー

     非臨床毒性試験及び臨床試験において、臨床検査は、化合物の生体への影響を明らかにする目的で実施される。臨床試験では非臨床試験のように病理組織学的検査の実施は困難であり、臓器への器質的な障害が起こる前に認められる機能的な障害や生理的な適応反応を捉えるという観点から臨床検査は重要である。非臨床毒性試験で変動した臨床検査パラメータ、特に組織障害との関連性を示すパラメータは、臨床試験を安全に進めるための有用なバイオマーカーとなる。各検査を実施することで生体の状態を示す多項目のデータが得られるが、その一方で得られたデータをどう解釈し、生体の状態を推察するかが重要となる。そのため、各項目がどの臓器の変化に関連しているか、どのような場合にどう変化するのかなど、それぞれの特徴や変動の原因を理解した上で毒性学的意義を判断しなければならない。特に多臓器に分布する酵素等については、アイソザイムや分布の種差を考慮する必要がある。さらに、臨床検査パラメータの変化における毒性学的意義の考え方については、各パラメータと臓器との関連性を理解することに加え、被験物質の薬理作用、対象疾患などを考慮する必要があるため、毒性判断の明確な線引きは困難である。

     本稿では臨床検査として、「尿検査・血液学的検査・血液生化学的検査」を取り上げ、一般的に測定される臨床検査パラメータとその関連臓器について紹介する。また、毒性学的意義の考え方について既承認医薬品の申請資料を参考に紹介する。

  • 奈良岡 準, 小田部 耕二, 蓑毛 博文, 甲田 章, 辻 暁司, 近藤 千真
    原稿種別: その他
    2021 年 2021 巻 23 号 p. 81-85
    発行日: 2021/09/16
    公開日: 2022/09/17
    解説誌・一般情報誌 フリー
編集後記
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