谷本学校 毒性質問箱
Online ISSN : 2436-5114
最新号
谷本学校 毒性質問箱
選択された号の論文の16件中1~16を表示しています
はじめに
中枢神経毒性
  • 沼田 洋輔
    原稿種別: その他
    2022 年 2022 巻 24 号 p. 1-7
    発行日: 2022/09/17
    公開日: 2023/09/14
    解説誌・一般情報誌 フリー

     中枢神経系(central nerve system: CNS)における安全性の懸念は、新薬候補品の臨床開発の遅延や中止の主な要因であり、非臨床におけるCNS 安全性評価は、検出力が高く、臨床外挿性の高い検査が求められている。その評価として、ICH(International Council for Harmonization of Technical Requirements for Pharmaceuticals for Human Use)S7Aガイドラインでは、機能観察総合評価法(functional observational battery: FOB)及び Irwin法が例示されている 1)。これらの検査は動物の行動、神経/筋、感覚/運動器及び自律神経の状態を総合的に評価するための複数のパラメータを含む観察バッテリーであり、ホームケージでの活動、ハンドリングに対する反応、オープンフィールドでの活動、筋力及び体温測定により構成されている。いずれの方法も肉眼的観察が中心であり、観察者の観察能力に大きく依存し、定性的な評価が主体であることから、検出力が十分であるとは言い難い。現に従来法で異常が検出されなかったにもかかわらず、臨床試験でCNS有害事象が発現し、開発中止になるケースは少なくない。Cookらの報告によると、臨床試験において安全性の懸念から開発中止となった化合物の標的臓器/器官ごとの割合は、CNS:34%、心血管:24%、肝臓:12%、腎臓:9%、胃腸管:9%、筋骨格:3%及び呼吸器:3%であり、CNSは他臓器/器官と比較しても臨床試験での開発中止の割合が高くなっている 2)。すなわち、非臨床安全性試験において臨床でのCNS有害事象を十分に予測できていない。非臨床安全性試験における臨床試験の有害事象予測率は、肝/胆管、胃腸管、血液及び眼が57~77%に対して、CNSでは30%以下と低いことが知られている 3)。また、Authierらは2010~2015年の第I相臨床試験でみられた特に頻度の高いCNS有害事象として、痙攣、振戦、歩行異常、嘔吐/吐き気、めまい、頭痛、倦怠感、傾眠、不安、疼痛及び認知障害を報告している 4)。加えて、Meadらの報告では、CNS標的薬54化合物及び非CNS標的薬87化合物に対して調査を行った結果、CNS有害事象が認められた化合物のうち頻度の高い有害事象は、それぞれ、頭痛が52%及び50%、吐き気が48%及び32%、めまいが57%及び23%、傾眠/倦怠感が59%及び16%、ならびに疼痛が9%及び18%であった 5)。これらのCNS有害事象はいずれも臨床試験において頻度が高いにもかかわらず、従来のげっ歯類を用いたFOB/Irwin法では検出が困難であると考えられ、新たなアプローチが必要である 6-8)。本稿では臨床試験におけるこれらの問題解決のための一助とすべく、非ヒト霊長類(non-human primate: NHP)、特にカニクイザルを用いた行動評価に焦点を当て、非臨床CNS安全性評価における臨床予測性向上の可能性について概説する。

  • 勝又 清至
    原稿種別: その他
    2022 年 2022 巻 24 号 p. 8-13
    発行日: 2022/09/17
    公開日: 2023/09/14
    解説誌・一般情報誌 フリー

     脳や末梢神経に働いて薬効を発揮することを期待している医薬品候補は、主作用を担う標的だけでなく、それ以外の作用点を介して望まない有害な作用を発現する可能性がある。しかし、そのような神経系に対する作用を前臨床段階の動物実験で確実に捉え、ヒトで起こる可能性を的確に予測することは困難であり、臨床試験において初めて神経系に対する毒性が認められ開発中止となるものも多い。こうしたリスクを軽減するために、医薬品候補の投与により引き起こされた変化を反映し、生きた個体から繰り返し採取できるバイオマーカーの探索が精力的に進められている。バイオマーカーには臨床検査マーカー、電気生理学的マーカー、イメージングマーカーなどがあり、技術の進歩に伴って新たなバイオマーカーが次々と開発されている。これらのバイオマーカーを活用する際には、特異性、感度、簡便性、侵襲性などの課題があるため、それぞれの特徴を理解しながら目的に応じて選択しなければならない。

     ここでは、神経毒性の液性バイオマーカーとしてよく知られているニューロフィラメント軽鎖(neurofilament light chain: NfL)を取り上げ、抗がん剤による神経障害の予測や、医薬品候補の神経障害抑制作用の評価への応用例などを示す。また、医薬品候補による神経毒性の機序解明には、単一のバイオマーカーだけでなく、複数のバイオマーカーの組み合わせが有用であることについても示す。

  • 小澤 誠
    原稿種別: その他
    2022 年 2022 巻 24 号 p. 14-19
    発行日: 2022/09/17
    公開日: 2023/09/14
    解説誌・一般情報誌 フリー

     血液と脳組織との間には脳毛細血管内皮細胞(brain microvascular endothelial cell: BMEC)を実体とする血液脳関門(blood brain barrier: BBB)が存在し、血液と脳組織の間で行われる物質の交換を制御している。他の末梢臓器における毛細血管内皮細胞と異なり、BBBでは内皮細胞同士が強固なタイトジャンクションを形成し、無窓性であること、ピノサイトーシス(飲作用)が非常に少ないことによって多くの物質の透過が妨げられている。そのためBBBは血液からの異物の侵入を阻止する静的な障壁と考えられていたが、種々のトランスポーターや代謝酵素の発現が確認され、BBBは脳に必要な栄養物質の取り込み、脳内からの代謝物の排出を能動的に行っている極めてダイナミックな存在であることが明らかとなってきている(図1)。このような特徴からBBBは中枢神経系の恒常性を保つために重要な存在である一方、薬物の中枢移行を制限する障壁となっている 1)

     1990年代頃から探索研究段階での薬物動態評価の重要性が認識されるようになり、多くの製薬企業で探索動態専門の部署の立ち上げや各種in vitro ADMEスクリーニング系の整備が行われてきた 2)。また、肝ミクロソームなどに代表されるヒト由来試料の普及やin vitro-in vivo correlation (IVIVC)、各種モデリング技術の発展によりヒトにおける薬物動態の予測精度は向上し、薬物動態が直接の原因となって臨床試験が失敗する割合は減少した 3)

     一方、BBBの機能が明らかになるにつれ、種々の中枢移行性に関する評価系が考案されてきているが、ヒトにおける薬物の中枢移行性データが入手困難であるため、評価系の構築や検証が困難である。そのためヒトにおける薬物の中枢移行性を予測することは非常に難度が高く、中枢疾患治療薬の臨床開発は成功率が6%程度と医薬品全体の成功率よりも低い要因の一つと考えられている 4)

     本稿では創薬の現場で実施されている評価系の概要、有用性と限界、今後に向けた展望について概説したい。

  • 鈴木 郁郎
    原稿種別: その他
    2022 年 2022 巻 24 号 p. 20-31
    発行日: 2022/09/17
    公開日: 2023/09/14
    解説誌・一般情報誌 フリー

     臨床試験の副作用により脱落した候補化合物において、副作用が検出された臓器/器官は、全臓器/器官の内、中枢神経系が34%を占め、最も高いとの報告がある 1)。その原因は、神経毒性を高い精度で検出できる非臨床評価系が十分でないこと、及び実験動物とヒトにおける「種差の壁」の問題だと考えられる。非臨床のin vitro試験で精度の高い副作用検出ができれば、臨床試験や非臨床動物試験まで進んだ後に、新薬開発を断念する事態を回避できる。特に、神経回路レベルの機能評価や作用機序予測を行える評価系が構築できれば、リード化合物が選定され、in vivo試験に移行する前に、化合物の順位付けや修飾等が可能となり、効率的な創薬開発につながると考えられる。ヒトiPS細胞由来神経細胞は、ヒトへの外挿性や神経疾患へアプローチできるモデル細胞として、その利活用が期待されており、微小電極アレイ(micro electrode array: MEA)やCa2+ imaging法による神経機能(電気活動)評価が近年国内外で行われている。本稿では、ヒトiPS細胞由来中枢神経ネットワーク、脳オルガノイド、感覚神経細胞の電気活動をMEA計測法により取得し、電気活動に基づいた化合物の副作用及び毒性リスク評価法について述べる。具体的には、臨床症状で分類されている抗菌薬関連脳症とin vitro神経ネットワークの応答性に関する話題、AI解析法による毒性リスク及び作用機序予測に関する話題を培養中枢神経ネットワークの例として紹介する。続いて、脳オルガノイドのMEA計測と解析法、及び末梢神経障害予測への応用が可能な感覚神経細胞のMEA計測に関する話題を紹介する。

  • ~これまでとこれから~
    駒田 致和
    原稿種別: その他
    2022 年 2022 巻 24 号 p. 32-37
    発行日: 2022/09/17
    公開日: 2023/09/14
    解説誌・一般情報誌 フリー

     ヒトの脳は、様々な種類の細胞が複雑なネットワークを形成し関係を構築することで、高次脳機能を支配している。中枢神経系は、その機能を司る神経細胞と、その役割を支持するグリア細胞から構成される。神経細胞は、例えば、大脳皮質では約160億個、小脳では約690億個、全体では約860億個局在している。グリア細胞は、アストロサイト、オリゴデンドロサイト、ミクログリアに大きく分類され、その数は神経細胞をはるかに上回る。このように、脳は多彩な細胞が複雑なネットワークを形成することによって、様々な高次脳機能を支配している。

腎毒性
  • 須佐 紘一郎, 森實 隆司
    原稿種別: その他
    2022 年 2022 巻 24 号 p. 38-45
    発行日: 2022/09/17
    公開日: 2023/09/14
    解説誌・一般情報誌 フリー

     薬剤性腎障害とは、薬剤治療によって引き起こされる腎障害の発症および悪化である。腎臓は、複数の理由によって薬剤による障害を受けやすいと考えられている。第一は、血流の豊富さである。腎臓は左右2個合わせても体重のわずか0.4%ほどの重量にしか過ぎないが、心拍出量の約25%が通過するため、臓器のサイズに比して血流が非常に多いといえる。第二は、尿細管での尿濃縮に伴って腎組織が高い薬物濃度に曝露されるという要素である。糸球体で濾過されて生成する原尿は一日当たり100 L以上に及ぶが、尿細管を通るうちに自由水が再吸収され、最終的に排泄される尿は1~2 L程度であり、実に約100倍に達する濃縮を受けていることになる。第三は、腎臓に到達する薬剤は、糸球体で濾過されるものだけではなく、血流に乗って尿細管上皮細胞に直接運ばれるものも存在することである。尿細管上皮細胞の血管側(基底膜側)の細胞膜上にはorganic anion transporter(OAT)やorganic cation transporter(OCT)などといった輸送体が存在し、臨床的に使用されている腎毒性薬物を含む有機陽イオン・陰イオンの細胞質への取り込みを担っている 1)。血液中に分布する多くの薬剤やその代謝物は、これらの輸送体を介して、尿細管上皮細胞の細胞質に取り込まれる。取り込まれたこれらの薬剤は、最終的に管腔側に発現している様々な輸送体を介して尿細管内腔に排泄されるが、この輸送の過程において、尿細管上皮細胞の細胞質における薬剤濃度が一時的に高まりやすい。

     薬剤による腎毒性は、臨床の現場において、急性腎障害(AKI)や慢性腎臓病(CKD)といった腎疾患の原因として頻度が高く、しばしば問題となる。そして、薬剤による腎毒性は、創薬の現場においても非常に大きな障壁となっている。新薬が有害事象により臨床試験中止になる確率は92%であるが、新薬の腎毒性が非臨床試験の段階で判明する確率はわずか7%とされる 2)。このように、薬剤の腎毒性を非臨床試験の段階で予測することは難しい。これは開発コストとして経済的な医療資源の損失に直結する問題である。

     非臨床試験の段階で新薬の腎毒性を検出することが困難な理由は、実際のヒトの腎臓の生理学的機能を備えた信頼できるモデルが不足しているためである。腎毒性物質の主要な標的は近位尿細管細胞であると考えられているが、ヒト不死化細胞株などの腎毒性を評価するための既存のin vitroの手法としての培養細胞系は、OATやOCTなどの腎薬剤輸送体の発現が不十分であるという問題がある。初代ヒト腎近位尿細管細胞株(renal proximal tubule epithelial cells: RPTEC)は、脱分化により輸送体の発現を容易に失ってしまう 3,4)。HK2、HKC-8、ciPTECなどの不死化されたヒト近位尿細管細胞株も輸送体の発現を失っている 5,6)。もう一つの問題は、腎毒性の機序が多様なことである。腎臓のネフロンには糸球体と尿細管で合わせて20種類以上の細胞が存在し、薬剤によって障害の標的が異なるが、培養細胞系は基本的に単一の細胞から成っており、糸球体と尿細管の両方の損傷を同時に検出することはできない。一方、腎毒性を評価するためのin vivoの手法は動物モデルであるが、ヒトと動物では腎薬剤輸送体の機能や発現パターンに違いがある。このため、薬剤の細胞への取り込まれ方も異なることがわかっており 7)、腎毒性物質によってヒトで引き起こされる腎臓の現象を忠実に再現できないことが度々起こる。

     以上の理由から、包括的な腎毒性評価に利用可能な新しい予測モデルが必要とされている。その一つの答えとして、腎臓オルガノイドを挙げることができる。近年、直接的な分化誘導または転写因子によるリプログラミングによって腎臓の細胞を作製する in vitroの方法が確立された 8-10)。これらの技術の進歩により、ES細胞やiPS細胞を含むヒト多能性幹細胞からネフロン前駆細胞や腎臓オルガノイドを作製することが可能となっている。我々のグループが作製し2015年に報告した腎臓オルガノイドは、糸球体足細胞、近位尿細管、ヘンレのループ、遠位尿細管のマーカーを発現するネフロン様の構造をもっており、in vivoのネフロンに類似した連続的な配置を有している 9,11)。腎臓オルガノイドは、バルクおよび単一細胞のRNAシークエンスでは依然として幼若で不完全なモデルであることが示されており 10,12)、腎代替療法に利用する組織の供給源としての長期目標に向けて、成熟性と機能を改善するための努力が払われている。一方、腎臓オルガノイドは、他の有望な用途として疾患モデリングへの応用も期待されており、遺伝性腎疾患、AKIなどを再現した報告も出てきている 13-16)。我々は、薬剤の腎毒性評価においても腎臓オルガノイドが利用可能なのではないかと考えて検証を行っている途上であり、これまでに判明している知見について概要をお伝えしたい。

核酸医薬
  • 小比賀 聡
    原稿種別: その他
    2022 年 2022 巻 24 号 p. 46-55
    発行日: 2022/09/17
    公開日: 2023/09/14
    解説誌・一般情報誌 フリー

     核酸医薬品は、難治性疾患に対する治療薬開発に有望な創薬モダリティーの一つとして注目を集めている。2022年7月現在、日米欧で承認された核酸医薬品は、16品目とまだ多くはないものの、2016年以降は毎年複数の核酸医薬品が承認されている(表1)。また、現在臨床試験が進められている核酸医薬品は世界で百数十件を数えており、今後も活発な研究開発が続くと予想される。

     核酸医薬品の中で最も古くから研究が行われてきたアンチセンス核酸は、標的となる細胞内のRNAに配列特異的に結合することでそのRNAの機能を制御する。Watson-Crick塩基対形成に基づく二重鎖形成が薬効発現に直結するという点で、アンチセンス核酸の作用メカニズムは単純明快であるといえる。しかし、このアンチセンス核酸においてすら、活性や安全性の最大化に必要な化学修飾・配列設計技術に関する最適解を見いだすには至っていないのが現状である。今後、核酸医薬品の研究開発がより一層の広がりをみせ、多くの疾患を対象とした医薬品の開発につながっていくためにも、関連する化学や生物学のさらなる進展とその理解が必要となることはいうまでもない。

     本稿では、核酸医薬品の定義や種類、作用機序について触れた後に、これまでに承認されてきたアンチセンス核酸に用いられている化学修飾(ホスホロチオアート結合、モルフォリノ核酸、2’-MOE(2’-O-methoxyethyl RNA))及び、我々が開発してきた架橋型人工核酸について、その特徴を解説する。最後に、核酸医薬品の毒性の分類の考え方やオフターゲット効果、核酸医薬品の毒性発現メカニズムに関連する研究の事例について紹介する。

動物福祉
  • 大沼 健太
    原稿種別: その他
    2022 年 2022 巻 24 号 p. 56-61
    発行日: 2022/09/17
    公開日: 2023/09/14
    解説誌・一般情報誌 フリー

     動物福祉とは、何となくのイメージはあるが、それを具体的に説明するのが難しい言葉の一つであると個人的には思っている。人間が動物を利用するということを認めた上で、動物に対して与える痛みやストレスといった苦痛を最小限に抑えることにより、動物の心理学的幸福を実現する考えと私個人は解釈しているが、その考えの基本となるものには以下の「5つの自由」がある。

     1.飢えおよび渇きからの自由

     2.不快からの自由

     3.苦痛、損傷、疾病からの自由

     4.正常な行動発現の自由

     5.恐怖および苦悩からの自由

     「5つの自由」の原点は、1965年に英国農業省が設置した「集約的畜産システムの下にある農用動物の福祉に関する調査のための専門家委員会」(通称ブランベル委員会)の報告書によって作られ、1979年には農用動物福祉審議会(FAWC)が動物福祉の理想的な状態を定義する枠組みとして、「5つの自由」をまとめた 1)。動物実験はこれら5つの自由のうち1つ、もしくは複数を制限することになってしまう場合が多いが、可能な限りこれらを制限することのないよう、また、制限するとしてもその時間を可能な限り短くすることを考慮すべきである。なお、最近ではMellorらが5つの領域モデル(five domains model)を提案した 2)。5つの領域モデルは5つの自由を発展させたもので、栄養・環境・健康・行動・精神の5つの領域が複雑に相互作用することを通じて、動物にとって生きる価値のある生の実現を目指すものである。主に展示動物の分野で用いられる場合が多いが、最近では実験動物をはじめ、様々な分野の動物に対しても用いられるようになってきた。

     また、動物実験を実施する際の大原則として今では当たり前のように受け入れられるようになってきたが、3Rs(Replacement、Reduction、Refinement)があることも忘れてはならない。Refinementに関しては適切な麻酔薬・鎮痛薬の使用や、人道的エンドポイントの理解の広がりもあって具体的な項目として各所で実践されるようになってきたが、一方でReplacementのための代替法の理解や、Reductionのためのサンプル数算出根拠など、3Rsのための前提条件が理解されているかはいささか疑問の余地があるのではないだろうか。各施設の教育・審査担当者はこれまで以上に視野を広げて情報を取得するよう努力すべきであろう。

試験法ガイドライン
  • 三ヶ島 史人, 真木 一茂
    原稿種別: その他
    2022 年 2022 巻 24 号 p. 62-68
    発行日: 2022/09/17
    公開日: 2023/09/14
    解説誌・一般情報誌 フリー

      医薬品の生殖発生毒性試験は、医薬品のヒトへの適用が生殖及び発生過程における何らかの悪影響を誘発するかどうかに関する情報を得るための試験である。生殖発生毒性は一般毒性と異なり、ヒトで検証することが難しいため、得られた試験結果はヒトに外挿され、ヒトでの生殖発生に対する医薬品の安全性の評価に利用される。生殖発生毒性試験では、生殖細胞の形成、受胎、妊娠の維持、分娩及び哺育などの親世代の生殖機能に対する影響、胎生期の死亡及び発育遅滞、発生異常あるいは出生後の成長と発達などについての次世代に対する影響が評価される。

     サリドマイド禍を契機として、本邦では1963年に最初の生殖発生毒性試験法ガイドラインである「胎児に及ぼす影響に関する動物試験法」 1)が制定され、1975年にこの試験法は全面的に改正され、いわゆる三節生殖発生毒性試験法 2)が新しく制定された。1993年には医薬品規制調和国際会議(ICH)においてICH S5ガイドライン 3)が、また、1995年には雄の受胎能評価についてICH S5(R1)ガイドライン 4)で合意された。さらに、2000年のICHにおいて、雄の交配前投与期間についてICH S5(R2)ガイドライン 5)で合意され、本邦では「医薬品の生殖発生毒性試験についてのガイドラインの改正について」 6) (旧ガイドライン)が発出された。

     その後、当該ガイドラインには改定の機運はなかったが、2015年から全改定に向けた議論が始まり、2019年12月にICH S5(R3)ガイドライン 7)が合意され、本邦では2021年1月に「医薬品の生殖発生毒性評価に係るガイドライン」 8)(本ガイドライン )として発出された。

  • 髙橋 祐次
    原稿種別: その他
    2022 年 2022 巻 24 号 p. 69-72
    発行日: 2022/09/17
    公開日: 2023/09/14
    解説誌・一般情報誌 フリー

     言うまでもなく、成長・発達段階にある小児用医薬品開発には特別な配慮が必要となる。「子どもは小さな大人ではない」 1)と言われるように、子どもは、水分の多い身体組成をもち、体重あたりの体表面積は大きい。また、一概に子どもといっても、産児・正期産新生児・乳幼児・児童・青少年2)に区分されるように「不均質の集団」であり、消化管、腎臓、肝臓の機能及び血液脳関門の発達、受容体の発現や機能 3)、薬物動態 4)は成人とは異なる。そして、臓器・組織の機能のみならず、認知、情緒も出生時から成人に至るまで日々変化を続けており、外から与えられた生体影響を打ち消す恒常性維持機構の働きも成人と同一ではない。

     非臨床試験に携わる研究者は、臨床試験を安全に実施するための情報を得ることを念頭に置き、治験薬の潜在的な毒性を評価するための試験を計画し遂行している。成人を対象とした医薬品開発に比較して、小児用医薬品開発では、それぞれの年齢に対応した投与量、投与方法、投与頻度などの投与レジメン、剤型等考慮すべき事項が飛躍的に増加し、承認申請に至るまで多くの課題を解決する必要がある。開発の困難性が高いことから、小児患者に対する適応をもつ医薬品は限られている。図1は、本邦における平成24年から令和3年度までの10年間において、新医薬品として承認された全ての品目数と小児用医薬品としての適応を有する品目数を示したものである 5)。用法、用量の追加など適応拡大も含まれているが、年間100件を超える承認数に対して、小児用医薬品として適応を有するものは10件程度に留まっていることが分かる。

     適切に評価された小児用医薬品開発を推進するガイドラインの規制調和を行うため、2014年にICHの安全性に関するトピックとして「S11 Nonclinical Safety Testing in Support of Development of Pediatric Medicines」が承認され、2020年4月にStep 4に到達した(Step 4のタイトルは、Nonclinical Safety Testing in Support of Development of Pediatric Pharmaceuticals) 6)。本邦では2021年3月30日に「小児用医薬品開発の非臨床安全性試験ガイドライン(薬生薬審発0330第1号)」(以下、ICH-S11ガイドライン)として通知された。小児用医薬品開発に関する非臨床試験ガイドラインとしては、米国FDAが2006年にガイダンス 7)、EMAでは2008年にガイドライン 8)を整備している。2010年にICH-M3(R2)ガイドライン 9)、2012年に質疑応答集(Q&A)10)が国際合意されており、本邦では2012年に「小児用医薬品開発のための幼若動物を用いた非臨床試験ガイドライン」 11)及び「小児用医薬品のための幼若動物を用いた非臨床安全性試験ガイドラインに関する質疑応答集(Q&A)」 12)(薬生薬審発 0330 第1号の通知の適用に伴い廃止)が通知された経緯がある。ICH-S11ガイドラインが通知される以前は、複数のガイドラインが存在するため、要求事項が当局間で異なるという課題があり、特に、幼若動物を用いた非臨床試験の実施の要否は治験薬の開発スケジュールに大きく影響するため規制調和が望まれており、ICH-S11ガイドラインによりこれらの課題は一応の整理がついたことになる。

  • 松本 清
    原稿種別: その他
    2022 年 2022 巻 24 号 p. 73-79
    発行日: 2022/09/17
    公開日: 2023/09/14
    解説誌・一般情報誌 フリー

     小児用医薬品開発の非臨床安全性試験ガイドライン(ICH S11)は、2020年4月にStep 4 1)が、そして、本邦において翌2021年3月にStep 5 2)が達成された。本ガイドラインは、小児用医薬品開発のために推奨される非臨床的安全性評価の国際的な基準を示すとともに、調和を促進することを目的として発出された。

     小児用医薬品開発をサポートするための非臨床安全性試験は、試験実施の必要性及び試験デザインが開発医薬品に応じてケース・バイ・ケースで決定されるのが基本とされている。本ガイドラインは、ケースに応じて対応する考え方を提供しているという点で、ICH S11以前の日米EUのガイドライン 3-5)から一歩踏み込んではいるものの、対応するための判断が難しい部分があり、詳細な説明があることが望まれる。

     2021年9月に医薬品医療機器総合機構の主催によりICH S11説明会が開催された。本説明会は主としてQ&A 6)の形で開催され、ガイドラインの複雑でわかりにくい部分に焦点を当てた内容となっている。本Q&Aは、日本製薬工業協会 医薬品評価委員会 基礎研究部会との共同で作成されていることから、製薬メーカー側の疑問も反映した有用な情報となっている。

     本稿では、説明会で発表されたQ&Aを可能な限り取り上げ、さらに、ガイドラインのポイントを付記する形でまとめた。

毒性質問箱
  • ~第48回日本毒性学会学術年会 ワークショップ GLP業務の「New Normal」の展望~
    辻 暁司, 宅見 あすか, 甲田 章, 山口 晃輝, 児玉 晃孝
    原稿種別: その他
    2022 年 2022 巻 24 号 p. 80-87
    発行日: 2022/09/17
    公開日: 2023/09/14
    解説誌・一般情報誌 フリー

     2020年1月に日本国内で初の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が確認され、同年4月より最初の緊急事態宣言が発令された。コロナ禍と呼ばれる環境で発令されたこの宣言以降、社会における働き方が大きく変化し、急激な変化に適応しなければならない状況となっている。“New Normal”と言われるこの状況において、生活面では、密閉、密集、密接の3密を避けること、マスクやフェイスシールドの着用、不特定多数の人が触るものの消毒等が、感染防止対策として周知されてきた。一方、就業面では、職場への通勤時の感染リスク及び職場でのクラスター発生等を避けるために、テレワーク勤務の導入が進んだ。本邦における2020年1月~2022年2月の新規感染者数の推移 1)及び東京都におけるテレワーク導入率 2)図1に示す。2020年3月からの新規感染者数の増加に伴って最初の緊急事態宣言が発令された。その後、新規感染者数の減少により一旦、緊急事態宣言は解除されたものの、第2波、第3波の感染の波とコロナ対策が繰り返され、2022年2月現在、オミクロン株を主とした感染者数の急増により「第6波」といわれる環境にある。東京都におけるテレワーク導入率においても、2020年3月時点では20%台であったが、翌月の4月に60%を超え、以降、50~65%の導入率で推移し、“New Normal”に対応するインフラ整備が急速に進んだことがわかる。しかしながら、オフィスで仕事をすることが比較的多い職種ではテレワークを有効に活用できるが、我々のフィールドである医薬品開発における安全性部門のように、現場で作業を行う必要がある職種ではここまでの活用は難しいであろう。

活動報告
  • 藤田 卓也, 甲田 章, 宮園 耕介, 藤澤 希望, 辻 暁司, 黒岡 貴生, 森 光二, 土居 正文, 南谷 賢一郎
    原稿種別: その他
    2022 年 2022 巻 24 号 p. 88-89
    発行日: 2022/09/17
    公開日: 2023/09/14
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     2020年、「ニューノーマル」という新しい生活様式は、新型コロナウイルス感染症が拡大することで様々な社会活動に求められた変化を指し示す代表的な言葉となった。社会活動は、対面型コミュニケーションを制限せざるを得ず、非対面・非接触という新たなコミュニケーションへと大きく変化した。学会、研究会活動の場も例外ではなく、会場での対面型コミュニケーションから、オンラインの仮想空間における非対面型コミュニケーションに移行した。 安全性評価研究会は、長い歴史の中で対面型コミュニケーションを重視した様々な活動を展開してきたが、このような社会情勢の中で活動様式を変化させることで、新たな非対面型コミュニケーションの場、ウェブセミナーを提供し会員に届ける試みを進めてきた。このような環境の中で安全性評価研究会が企画するウェブセミナーは、大きく2つのタイプを企画することからスタートした。1つ目のLectureコース(Lコース)は、従来のセミナーと同様に講義を聴講したうえでQ&Aセッションで議論するタイプのコースである。2つ目のDiscussionコース(Dコース)は、講義を聴講するタイプのセミナーとは異なり、会員限定、少人数でディスカッションを行う新しいタイプのセミナーとして企図した。本稿ではDコースセミナーの開催内容を振り返り、また、今後の活動展望について述べていきたい。

  • 有江 裕子, 宅見 あすか, 田中 直子, 宮下 泰志, 鈴木 裕太, 蓑毛 博文, 澁澤 幸一, 土居 正文, 児玉 晃孝
    原稿種別: その他
    2022 年 2022 巻 24 号 p. 90-91
    発行日: 2022/09/17
    公開日: 2023/09/14
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     2020年以来、新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、各学会における学術年会や懇親会など多くの人が一堂に会することができない日々が続いている。その中で本研究会がこれまで行ってきた face to faceでのセミナーも開催が困難となり、中止を余儀なくされた。会員同士のつながりを大切にし、膝を突き合わせてとことん議論することを重んじてきた本研究会にとって、セミナー開催の意義を改めて問い直し、新たな方法での情報提供及び意見交換の場を創造する必要があった。

     本研究会では、「毒性質問箱」として、開催されたセミナーなどの情報をまとめた書籍の刊行、及び会員のメーリングリストに配信された質問を会員の中で議論する活動を行っている。谷学アフタースクールは、上記のこれまでの毒性質問箱の活動を、様々なデジタルツールを用いて情報発信、情報交換ができないかを検討する「毒性質問箱の新スタイル検討会」から始まった。

     検討会メンバーで協議を行った結果、実務に関する困りごとやキャリア形成など、セミナーではあまり取り上げられないけれども知りたい話を気軽に話し合える場を作ることにし、2021年5月から2022年3月まで1~2ヵ月に1回のペースで8回開催した。本稿ではその開催内容を振り返るとともに、今後の活動を展望する。

編集後記
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