2023 年 2023 巻 25 号 p. 1-8
前臨床・臨床試験における開発中止の最も多い要因はヒトにおける予期せぬ毒性発現であると言われる 1)。新薬の臨床開発中に、ヒトで毒性発現が確認された化合物のうち、実験動物を用いた毒性試験におけるヒトでの標的臓器毒性の予測性は、げっ歯類では43%、非げっ歯類では63%であった 2)。実験動物を用いた毒性試験からヒトの安全性を完全に見積もることが難しいことがその背景にあると考えられる。このため、毒性発現の種差を考慮した別の評価系も組み合わせることでその予測精度を上げたアプローチが必要となる。
そのひとつとして、近年、「ヒト肝細胞キメラマウス」が注目されるようになった。免疫不全の性質と肝細胞への毒性誘発機構を有するマウスに、ヒト肝細胞を移植することにより、マウス肝臓でヒト肝細胞が増殖し、その肝臓の多くがヒト肝細胞に置換されたヒト化肝臓マウスである。医薬品における毒性のうち、特に薬物性肝障害において、実験動物とヒトとの種差を埋めるモデル動物として期待されている。また、薬物性肝障害の予測には、ヒトにおける薬物動態の見積もりも重要な位置づけとなる。本稿では、ヒト肝細胞キメラマウスを用いた薬物動態評価、薬物性肝障害評価の知見から、これまで明らかになってきたこれらの予測性、今後の展望について紹介する。