日本語学習者は、様々な接触場面におけるコミュニケーションを通し、「場面」(人間関係や場)の認識が変容する可能性がある。本研究では、中国人上級日本語学習者が、接触場面で依頼を行った際に生じた「失敗感」に関する事例を採り上げ、接触場面で失敗を経験した学習者が、コミュニケーションに対する自身の内省と、実際の接触場面に関与しない「他者」の考えを知った後の失敗事例に対する待遇意識の変容を明らかにした。
4人の中国人上級日本語学習者を対象として、彼らの「失敗感」を持った事例についてインタビューをし、分析を行った。学習者の内省と「他者」の視点から生じた意識の変容を明らかにする際、より詳細な意識を聞き出すために、インタビュー調査では、学習者の母語(中国語)と目標言語(日本語)による通訳を入れた。
結果として、以下の3点が得られた。①学習者は、内省を通し、コミュニケーションに対する理解を深めることができるが、そこには限界があり、ネガティブな感情が生じることもある。②接触場面で「失敗感」を持った学習者は、他者の考え方を知ることを通して、経験したコミュニケーションに対する理解を深めつつ、落ち込む気持ちから解放されることができる。③本研究で提示した学習者の母語と日本語の通訳を調査に採り入れる方法は、学習者の待遇意識を聞き出し、深める際に有効である。
今後の待遇コミュニケーション教育において、学習者は他者との関わりを通して、自分自身の経験を再認識するという学びの方法が考えられる。具体的には、日本語学習者が自身の言語生活からの経験を教室活動に持ち込み、他者の考えを知ることを通して、自身の悩みを解決するといった方法である。その際に、日本語による対話活動のみならず、文章や母語を介する方法も効果的だと思われる。