待遇コミュニケーション研究
Online ISSN : 2434-4680
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研究論文
  • 台湾人日本語学習者と日本語母語話者の発話を比較して
    喬 曉筠
    2025 年22 巻 p. 1-16
    発行日: 2025/04/01
    公開日: 2025/04/01
    ジャーナル 認証あり

    本研究では、ビジネス交渉場面の会話をデータとして、<中途終了文>に着目し、台湾人日本語学習者と日本語母語話者の異同を考察した。その結果、日本語母語話者および台湾人日本語学習者のいずれも<中途終了文>を多用しており、交渉の前後よりも交渉のやりとりの最中に頻出するという共通点が明らかになった。これは交渉談話における特徴の1つと言えよう。一方、グループ間の相違点も認められた。確かに、台湾人日本語学習者は<中途終了文>を頻繁に使用しているが、日本語母語話者と比較するとその頻度が有意に低かった。また、交渉が進むにつれて、日本語母語話者では<中途終了文>の使用が次第に増加したのに対し、台湾人日本語学習者では減少傾向を示した。<中途終了文>のようなぼやかした言い方を用いることは、相手の反応をうかがいながら妥結点を探るうえで有効な手段であるが、交渉において柔軟性を持たせるためには、交渉の冒頭だけでなく、進展した段階でも活用できるよう指導することが求められる。さらに、台湾人日本語学習者の発話には「けど」が散見された。全体として丁寧な話し方がなされているなかで、くだけた印象を与える「けど」をよりフォーマルな「けれども」などの表現に置き換え、丁寧さの整合性を高めることが重要である。加えて、原因や理由を説明する際、接触場面における日本語母語話者の発話では主観性の強い「から」の使用が多く確認されたものの、日本語母語場面では少なかった。この現象は、話し相手が非母語話者か母語話者かによって影響を受け可能性を示唆している。学習者は母語話者の言語使用を規範とする傾向があるため、こうした接触場面と日本語母語場面の違いを理解させることで、相手や状況に応じた適切な表現を選択する意識の向上と円滑なコミュニケーションの促進が期待される。

  • 命題提示の完結性と異なるあいづち形式使用の関わり
    小林 かおり
    2025 年22 巻 p. 17-32
    発行日: 2025/04/01
    公開日: 2025/04/01
    ジャーナル 認証あり

    日本語会話で見られるあいづちは聞き手行動の一つであり、その表現には様々な形式がある。特に「うん」、「はい」といった言語的あいづちと、頷きによる非言語的あいづちが頻出し、話し手の話を理解していること、聞いていることを表示する機能があるという(小宮1986等)。また、言語的・非言語的あいづち使用を会話参与者間の親疎関係という社会的要因との関わりから分析すると、親の関係では非言語的あいづちよりも言語的あいづちの方が多く使われるのに対し、疎の関係では言語的あいづちよりも非言語的あいづちの方が頻出することが示されている (Miyazaki, 2007) 。しかし、親疎関係にある話し手に対し、それぞれの聞き手がどのような状況において言語的・非言語的あいづちを区別するのかは未だ明らかではない。

    本稿では聞き手が親疎の関係にある話し手に対し、言語的・非言語的あいづちをどのように使用するのかについて、話し手の命題提示の完結性、つまり命題内容の提示が完結しているか否かという点に着目して分析した。その結果、聞き手は親の関係にある話し手に対し、非言語的あいづちよりも言語的あいづちを頻繁に送り、話し手による命題提示が完了しているか否かに関わらず言語的あいづちを用いる傾向があった。そうすることで聞き手は、話し手の命題提示という行動の流れを話し手と共同で作っていると考えられる。一方、疎の関係にある話し手に対し聞き手は、言語的あいづちよりも非言語的あいづちを多用し、話し手による命題提示が完結している時点では言語的あいづち、命題提示が未完結の時点では非言語的あいづちを使用する傾向があった。聞き手は異なるあいづち形式を選択し、命題内容に対する理解、または会話への積極的な参加を示していると考えられる。このように、親疎関係に応じて異なる言語的・非言語的あいづち選択は、聞き手が話し手への配慮を示す配慮言語行動の一つだと言える。

  • 言語・年代・話題・スピーチスタイルによる違いに焦点を当てて
    辛 昭靜, 石崎 雅人
    2025 年22 巻 p. 33-49
    発行日: 2025/04/01
    公開日: 2025/04/01
    ジャーナル 認証あり

    本論文では、場面想定法を用いて、高齢者への介護従事者の言葉遣いについて日本人と韓国人の認識を比較した。調査は、日本人600人、韓国人571人を対象に行った。調査対象者には、介護従事者と高齢者の会話を提示し、SD法により評価してもらった。会話は、話題2種類と言葉遣い2種類を組み合わせて計4場面とした。話題は、介護に直接関係する「食事」と直接関係しない「天気」、言葉遣いは、普通体と丁寧体から成っている。

    結果は、次のようにまとめられる。(1)日本語では、年代による評価の差は見られなかった。介護に直接関係しない話題に対して、普通体と丁寧体の使用に対する評価の差は見られなかったが、直接関係する場合、丁寧体を普通体より高く評価していた。(2) 韓国語では、年代・話題に関わらず、丁寧体を普通体より高く評価していた。介護に関係する話題の場合、年代によって丁寧体の評価が異なっていた。評価の高さは年代により異なっていた。(3)日本語と韓国語の比較では、話題・年代にかかわらず、普通体に対しては、日本人が韓国人より高く評価していた。丁寧体は、介護に直接関係する話題の場合、20-30代と70代では日本語と韓国語の評価の差はみられなかったが、40代では韓国人が日本人より高く評価していた。

    これらの結果から、介護従事者の高齢者への言葉遣いについて、日本語では、介護に関係しない話題の場合、普通体が丁寧体と同様に高く評価されていることから、普通体をいつ使えばよいかを考えなければならない。韓国語では、介護に関係する話題の場合、年代により丁寧体の評価が異なることから、丁寧体の使用に関する細やかな配慮が必要となる。

  • 杉本 あゆみ
    2025 年22 巻 p. 50-65
    発行日: 2025/04/01
    公開日: 2025/04/01
    ジャーナル 認証あり

    本研究は、高等教育機関における2年次前期選択科目「日本語Ⅱ」受講学生(58名)を対象にした敬語力を身に付ける授業内において、協働評価を取り入れた経験学修モデルを導入し、その効果を検証したものである。事前・中間・事後に実施した敬語テストの結果より、授業効果を統計的に実証することができた。また、授業終了後に学修の振り返りに関する聞き取り調査を実施し、得られたデータについては、修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチを採用して分析した結果、協働評価の影響を受けながら、知識獲得→知識理解→実践→内省・概念化→成功体験生成、というプロセスを経て、敬語能力や、副次的にエージェンシーを身に付けられる可能性があることが示唆された。さらに、受講学生による学修の振り返り内容からは、授業開始当初の自分と比較して、授業で得た敬語に関する知識をもとにして、授業内でのロールプレイングや協働評価、普段の生活における実践を繰り返すことによって敬語力を身に付けることができたと学生自身が自覚することで成長感、達成感が芽生え、それがエージェンシー獲得に繋がることが示唆された。以上により、日本語敬語教育における協働評価を取り入れた経験学修モデルの有効性を確認することができたと考える。

  • コメントの表現主体と理解主体としての経験の分析を通して
    曺 旼永
    2025 年22 巻 p. 66-82
    発行日: 2025/04/01
    公開日: 2025/04/01
    ジャーナル 認証あり

    研究を進め論文を書く際には、他者からのコメントを受けて、内容や文章をより良くしていく作業が必要である。コメントは、その受け手となる相手の捉え方によって、良いか否か、また、コメントとして捉えるか否かなどが決まってくる。従来の研究では、このような個人の内面を含む、経験にはあまり焦点が当てられず、学術的内容へのコメントのコミュニケーションにおいて、コメントが相手に役立っているか否か、そこでの経験をどのように捉えているかなどの詳細は、十分には把握されていない部分がある。

    本稿では、このような部分に注目し、学術的内容へのコメントをめぐるコミュニケーションの捉え方を把握するために、個々人の経験に焦点を当てる。特にコメントをする表現主体がコメントをすることで良かったと捉えた経験や、コメントを受ける理解主体として良かったと捉えた経験、これらを「良さ」と捉え、学術的内容へのコメントのコミュニケーションにおいて、良かった経験の捉え方に繋がる要因は何かを見ていく。

    本稿の調査は、学術的文章へのコメントのコミュニケーションの経験がある協力者を対象に、半構造化インタビューを実施した。学術的文章へのコメントのコミュニケーションの経験(対面や非対面を含む)において、コメントの表現主体、理解主体としての良かった経験はあるかという質問に対する返答で、良さの要因が語られた部分を主にコーディングし、どのようなことが良かった経験の捉え方に影響しているのかを提示した。

    本研究の結果、学術的内容へのコメントのコミュニケーションを行う時に参考となる観点として、コメントの表現主体と理解主体、双方が共通して目指す学術的内容へのコメントのコミュニケーションの方向性や、コミュニケーションを実施する形態が、良さに関連していることが分かった。また個別性の考察では、コメントの表現主体がコメントをすることで良さに繋がるものがあることや、コメントの理解主体がコメントのコミュニケーションを行う前の段階に当たる状況に影響を受けていること、などが示された。

  • 【前提】と「意識」の連動に着目して
    莫 冠シン
    2025 年22 巻 p. 83-99
    発行日: 2025/04/01
    公開日: 2025/04/01
    ジャーナル 認証あり

    本論文は、コミュニケーション主体が接触場面においてどのように人間関係を構築するのかについて、コミュニケーション主体の【前提】と「意識」の連動に着目し、縦断的に観察・分析したものである。

    本研究では、同じ大学院に通う新入生3名(I、N、Y)を研究対象として、YをベースとしてIおよびNとそれぞれ一対一のペアを形成した。対象者同士がほぼ初対面の状態から6回にわたり月1回の会話調査に協力してもらい、会話後のフォローアップ・インタビュー調査データを基に分析を行った。

    結果として、YとIは初期段階では<人間関係構築に対する認識>の【前提】にずれが見られ、<相手との関係性>に対する認識の相違があったが、会話を重ねることで、相手の<人間関係に対する捉え方>の【前提】を窺い、近似性を感じるようになったことで、<相手との関係>を前向きに捉えるようになった。一方、YとNは、初期の段階では、<人間関係構築に対する認識>の【前提】は近似していたが、会話を重ねるにつれ、<人間関係に対する捉え方>の【前提】の相違に気づき、<相手との関係>に対する認識は、最初の関係性の深化への期待から、現状維持という方向に変わっていった。

    このように、コミュニケーション主体は初期段階の接触において、お互いに<人間関係に対する捉え方>の【前提】を窺うことができず、かわりに<人間関係構築に対する認識>という【前提】に基づいて相手への印象を形成し、会話相手との関係性に対する「意識」を構成していた。しかし、会話を重ねる中で、相手の<人間関係に対する捉え方>の【前提】を理解することが、人間関係の発展において重要な役割を果たすことが明らかになった。

  • 「意識」に着目した調査事例を踏まえた考察
    平松 友紀
    2025 年22 巻 p. 100-116
    発行日: 2025/04/01
    公開日: 2025/04/01
    ジャーナル 認証あり

    本稿では、待遇コミュニケーションに基づく調査研究における、コミュニケーション行為を追究するための調査視点、データ収集や分析方法などの調査のあり方を検討する。本研究では、特に「意識」に着目し、先行研究を概観し調査方法を再考するための知見、課題を検討した。その結果を踏まえ調査の視点、方法の一案を提示し、実際に実施した調査結果をもとに、改めて、待遇コミュニケーションに基づく調査のあり方を考察した。

    「意識」を捉える調査では、本研究では主に次の3点を提示した。(1)具体的なコミュニケーション行為のなかで、調査協力者の「前提」などの内面を深く探る方法、(2)調査協力者に判断をゆだねたやりとりのなかでのコミュケーション行為の展開に伴う「意識」を収集する方法、(3)「連動」などのように「意識」を含め複数の視点で分析する方法、である。これらを踏まえ本研究では、ビジネスメールを事例とした調査を実施した。調査の語りからは、メールの送受信から想起された調査協力者の「前提」が捉えられ、本稿では、(1)コミュニケーション行為の内省のきっかけとなる出来事、(2)調査協力者により異なる、認識と表現との「連動」をとり上げた。考察では、先行研究ではコミュケーション行為の前提に、コミュニケーション主体の叶えたい意図が明確にある状態が、自明のこととして想定されてきた点を指摘した。そして、その場の意図や待遇意識に留まらず、「前提」を含めて捉える調査を、やりとりのなかで展開されていく動態的な意識や認識として追究できれば、コミュニケーション主体が判断していく過程を含めた「意識」を検討していける点に言及した。それは、主体の認識に重点を置きコミュケーション行為を捉える、待遇コミュニケーションに基づく調査のあり方の一つだといえるのだろう。

特別寄稿
  • 清水 崇文
    2025 年22 巻 p. 117-129
    発行日: 2025/04/01
    公開日: 2025/04/01
    ジャーナル 認証あり

    本論文は、中間言語語用論 (interlanguage pragmatics) の発展を概観し、日本における待遇コミュニケーション研究との関係を考察する。

    中間言語語用論は、1970年代末に誕生した、第二言語学習者の語用論的知識の使用と習得を研究する分野である。当初は異文化間語用論の影響を受け、学習者の語用論的特徴を目標言語の母語話者と比較する研究が主流だったが、1990年代には発達過程や学習環境の影響を探る習得研究が進み、習得研究としての方向性が強まった。2000年代以降は第二言語習得 (second language acquisition: SLA) の理論を取り入れ、語用論的知識の教育(指導的介入の効果)や学習者の個人差要因にも関心が広がった。2010年代になると、会話分析 (conversation analysis: CA) の手法を応用して談話レベルの連鎖構造が分析されるようになり、相互行為能力としての語用論的能力が提唱されるに至っている。

    一方、敬語の研究から始まった日本語の待遇コミュニケーション研究は、日本語教育という文脈の中で、その射程を敬語表現、待遇表現、待遇コミュニケーションと広げてきており、「人間関係」と「場」、コミュニケーション主体の「意図」と「待遇意識」など、語用論と共通する概念が理論的枠組みとして利用されている。「習得過程」の解明への関心が見られない点が異なるものの、日本語非母語話者の日本語を対象とした待遇コニュニケーション研究は、「待遇コミュニケーション研究でもあり、中間言語語用論研究でもある」と言えよう。

    このように、異なる背景と経緯を持つ中間言語語用論と待遇コミュニケーション研究ではあるが、両分野の知見を統合することで、より包括的な研究の可能性も見えてくるものと思われる。

  • 生天目 知美
    2025 年22 巻 p. 130-145
    発行日: 2025/04/01
    公開日: 2025/04/01
    ジャーナル 認証あり

    本稿では、所属する研究室コミュニティで丁寧体基調の会話を行うことが多い大学院留学生を対象としたスピーチスタイルの教育実践を報告した。研究室に大学院生や研究生として所属する留学生は、教員だけではなく日本人学生とも丁寧体基調のスピーチスタイルを用いて日常的に会話を行っていることが多い。この背景には普通体を使いこなすための日本語能力が不足しているという理由のみならず、研究室における親密とは言えない人間関係や、自分をどのような人物として他者に認識してほしいかという自己呈示がある。こうした状況を鑑み、本実践では丁寧体基調のスピーチスタイルを保ちながら丁寧さを下げ、親しみを表現する方策(独話的な終助詞や相づち、縮約形の使用)について学習者が明示的に学習する機会を提供することを目的とした。

    実践では、1)スピーチスタイルの導入として、基本的なスピーチスタイルの使い分けに関する規範意識の確認のほか、文末や語彙のスタイルの変化によるスピーチスタイルの段階性、スピーチスタイルの選択に関わる諸要素を解説、2)聞き手目当て性を調節する言語表現の1つとして終助詞を取り上げ、「な」「ね」「よ」および「かな」「かね」を紹介し、スピーチスタイルとの組み合わせや独話的発話に使用される「な」を「独り言風発話」として導入、3)相づちのスピーチスタイルによる使い分けや中国語母語話者の注意点、相づちにも感動詞を中心とした聞き手目当て性が低い表出型の「独り言風発話」があることを解説、4) 縮約形が丁寧体とともに使用されることにより、丁寧さを保ちつつ親しみを表現できることを解説、5)まとめとして丁寧体基調の会話に終助詞や相づちを用いた「独り言風発話」や縮約形を使用する会話練習、の順に行なった。こうしたスピーチスタイルの調整方法の学習が、留学生の所属コミュニティにおけるコミュニケーションの気づきや参画に寄与することを目指した。

運営委員会企画
2024年待遇コミュニケーション学会春季大会・秋季大会研究発表要旨
  • 変容に影響を与える他者の考えと経験
    韋 夢瑶
    2025 年22 巻 p. 212
    発行日: 2025/04/01
    公開日: 2025/04/01
    ジャーナル 認証あり

    本研究は、接触場面のコミュニケーションで「失敗感」を経験した中国人上級日本語学習者(以下、「経験者」とする)が、その経験に対する他の日本語母語話者および中国語母語話者(以下、「他者」とする)の考えを、「経験者」に対して「他者」の考えを伝える立場の者(以下、「仲介者」とする)により中国語で伝えられた後の「経験者」の待遇意識の変容において、「他者」のどのような経験に基づいた、どのような考えがその変容に影響を与えたのかを具体的に明らかにしたものである。

    結論は、以下の4点である。①本研究の調査において、「経験者」の待遇意識の変容に影響を与えた「他者」の考えを、「接触場面のコミュニケーション行動に対する提案」、「当事者の母語話者の意識に対する解釈」、「日本社会の規範に対する解釈」、「学習者の「失敗感」を弱化するための工夫」、「学習者の葛藤に対する解釈及び理解」という5つに分類、整理した。②「他者」からのほぼすべての考えが「経験者」に受け入れられた。③「他者」は、自身の経験に基づいて、「経験者」の「失敗感」に対する考えを述べていた。④「経験者」と近い経験を持つ「他者」の考えだけではなく、異なる文化背景や異なる経験を持つ「他者」の考えも、「経験者」の変容を促していた。

    本研究の結果から、次のことが示唆される。①学習者は、様々な経験を持つ他者と関わっていく必要がある、②学習者の今後の待遇コミュニケーションの実践に向け、多様な他者の経験や考えを尊重し、学習者自身の意識の変容や成長を促すためのコミュニケーション活動が求められる。中では、仲介者が介入した間接的なコミュニケーションが、学習者が様々な他者からの考えを理解し、自身が持つ「失敗感」を解消する際に、効果的だと思われる。

  • パターン・ランゲージによる熟達者の<わざ>の記述
    伴野 崇生
    2025 年22 巻 p. 213
    発行日: 2025/04/01
    公開日: 2025/04/01
    ジャーナル 認証あり

    本発表では、インタビュー調査に基づいて作成したパターン・ランゲージ(井庭2013)と呼ばれる知の記述法を通じて、難民支援としての日本語教育・難民を対象とした日本語教育におけるネガティブ・ケイパビリティ(以下、NC)の重要性に関する主張を行った。

    帚木(2017)によれば、NCとは「どうにも答えの出ない、どうにも対処しようのない事態に耐える能力」「性急に証明や理由を求めずに、不確実さや不思議さ、懐疑の中にいることができる能力」である。パターン・ランゲージ作成の際には、「ある文脈がある」ときに「問題が起きやすい」ので、そこで「ある解決策をとる」といった記述を、インタビューデータをもとに行っていく。本研究では、以下の記述が得られた。

    難民的背景を持つ人々は、日本での生活が安定していないことがあります。また、そもそも日本を目指して逃れてきたわけではない人もいて、日本で生活を立ち上げていこうという気持ちになることができない人に出会うことも少なくありません。

    ▼そういうときに

    日本語教師として関わっていても、他の場面のようには成果が得られないと感じることがあるかもしれません。また、学習者を責めるような気持ちになってしまったり、日本語教師としてできることの限界を感じたり無力感を覚えたりして関わること自体やめてしまいたくなったりすることもあるかもしれません。

    ▼そこで

    目の前の状況や日本語力に囚われて一喜一憂するのではなく、長期的な視野にたって関係性をつくっていくことにまずは注力します。これまでの日本語教師としての経験や常識は一旦留保して、焦らずに人間関係や場、学ぶ環境やお互いの心の環境を整えていきます。

    ただし、NCの重要性が頭で理解できたとしてもそれを実践するのは容易ではない。今後はさまざまな実践知についても描き出し、実践知の記述の精緻化・体系化を進めるとともに、NC発揮の支援のあり方についても検討していきたい。

    なお、本研究はJSPS科研費JP23K01947の助成を受けたものである。

  • ウォーカー 泉
    2025 年22 巻 p. 214
    発行日: 2025/04/01
    公開日: 2025/04/01
    ジャーナル 認証あり

    「待遇コミュニケーション」は、「コミュニケーション主体」の認識により、「場」「人間関係」「意識(意図)」「形式」「内容」(「待遇の諸相」)が連動する複雑で動態的な「行為」である。待遇コミュニケーション(教育)研究(以下、TC研究と呼ぶ)では、そういった待遇の諸相がどのように連動しているのか、その教育研究では、どのような教育を行えば学習者がそれらを連動できるようになるのか、そして、学習者は待遇コミュニケーションをどのように習得していくのかなどを明らかにすることが重要な課題となる。しかしながら、「待遇コミュニケーション」はその動態性や連動性故に、分析することもさることながら、結果をわかりやすく記述することも容易ではない。

    そこで、本研究では「意識」を研究の専門領域としている文化心理学から生まれた質的研究方法であるTEA(複線径路等至性アプローチ)をTC研究に応用することにより、研究方法としての可能性と課題について検討した。TEAは、TEM(Trajectory Equifinality Model複線径路等至性モデリング)とTLMG(Three Layers Model of Genesis発生の三層モデル) とHSI(Historically Structured Inviting歴史的構造化ご招待)という三つの要素で構成されている。本研究では、これらを用いて高度外国人材の日本語の習得プロセスを明らかにしたウォーカー(2024)The Japanese Language Acquisition Process of Highly Skilled Foreign Human Resources (jatq.jp)の調査協力者の中から、シンガポールで日本語を学び、日本での約5年にわたる就労を経る間に待遇コミュニケーションに対する認識や能力に大差のついた2名に焦点を当てて、待遇コミュニケーションの習得プロセスを描いた。その結果、学習者がどのような径路を得て習得に向かうのか、また、どのような社会的要因が習得を促進したり、逆に疎外したりするのかを可視化することができた。さらに、TLMGによって描かれた行為、記号(気づき)、価値観・信念の三層を待遇コミュニケーションの観点から捉え直すことにより、待遇コミュニケーションに対する認識に影響を与えた要因や、行為と意識の関係を明らかにすることができた。さらに、TEAは行為や感情の微細な変容のメカニズムを捉え、可視化する方法でもあるため、行為や意識と前提(蒲谷他2019)との関わりを分析、可視化することも可能となるのではないかという見通しが立った。

  • 内田 尋巳
    2025 年22 巻 p. 215
    発行日: 2025/04/01
    公開日: 2025/04/01
    ジャーナル 認証あり

    本研究では、そのサービスに高い評価を受けているCAを対象に、どのようにして顧客とのコミュニケーションから待遇意識を向上させているのか、にかんして待遇コミュニケーションの視点から考察することを目的とする。CAにかんする先行研究では「気づき」や「察する」ようなおもてなしのスキル形成プロセスを検討したものが多いが、顧客との距離感を図りながら、自身のとりうる対応の方法を、周囲の状況を考慮して選択しコミュニケーションしていくといった具体的な場面の描写には不足があった。このために自身の所属する組織で行われた接客スキルコンテスト入賞者13名にインタビューしたなかから、顧客とのエピソードに着目し、そのなかの一事例を取り上げ分析した。取り上げたエピソードは、CAが機内で騒ぐ子供を連れた母親と会話し、母親が初対面にもかかわらず個人的な事情までもCAに語ったという内容である。これによるとはじめのうち母親の態度は打ち解けないと思われる様子だったが、最後にはCAに心の奥の感情を吐露し、後日この母親からお礼のレターが届いたというものである。

    CAは多様な顧客の期待に応えようとして移動時間の価値を高めるために行動しようとする姿勢を持つ。そして顧客対応のための様々な技法を持つが、本事例ではこの母親の、「放っておいてほしい」様子や、飛行機が満席で他に移動できない緊張感、イライラしている周囲の顧客の感情などに葛藤しながら、無難な技法である「手伝いを申し出」ることからコミュニケーションをスタートさせた。このエピソードでは顧客の事情への共感をあらわす傾聴を軸として、相手の表情や仕草、話し方から自分の態度を調節してコミュニケーションを重ねていること、その場面の人間関係や場によって「手伝いの申し出」から会話が様々に展開していく、ということが言える。CAは意識していない初対面という場がCAにとって有利に働き、顧客に色々なことを語らせる機会となっているようにもみえる。

    このように待遇コミュニケーションの分析視角を用いることで、CAにとっての無難な技法の展開の可能性を示せたこと、同時にCAの接遇に対する気持ちや態度に影響する事例になりうることも明らかになり人財育成への示唆も捉えられたと考える。

  • 新たな仲介活動の構想
    韋 夢瑶
    2025 年22 巻 p. 216
    発行日: 2025/04/01
    公開日: 2025/04/01
    ジャーナル 認証あり

    本発表では、「メディエーション」という概念を取り上げ、「メディエーション」がいかに待遇コミュニケーション研究・教育で展開されるかを論じた。『ヨーロッパ言語共通参照枠』(2001)(以下CEFR)では、「メディエーション」は主に翻訳・通訳と捉えられていた。CEFR増補版(2020)では、「メディエーション」に新たな内容が追加され、日本語教育を含む様々な分野で実践されている。しかし、「メディエーション」は、待遇コミュニケーション研究・教育で言及されることが少なかった。本発表では、待遇コミュニケーションにおける「メディエーション」の役割を考察し、これを取り入れた新たな教育・研究の可能性を提示した。以下のような2つの研究課題(RQ)を設定した。RQ1:「メディエーション」の観点を待遇コミュニケーション研究・教育に取り入れる場合、どのような範囲で応用できるか。RQ2:「メディエーション」を仲介活動として待遇コミュニケーション研究・教育に取り入れる場合、どのように展開されていくか。

    本発表では、文献調査を行い、待遇コミュニケーション研究と「メディエーション」それぞれの理論的背景、実践例と成果を示した。また、待遇コミュニケーション研究・教育における改善点とその改善方法について、先行研究を参照し、「メディエーション」がどのような形で導入されるべきかを検討した。

    考察した結果として、以下の点が明らかになった。①「メディエーション」は、様々なコミュニケーションの場面において応用できる。②「メディエーション」は、日本語学習者のみならず、日本語母語話者や日本語教師も含め、広範な実践者により行われる。また、AIを介入させることも可能である。③「メディエーション」は仲介活動として待遇コミュニケーション研究・教育で応用される際に、言語的(言材)、文化的(コミュニケーションの意味や機能)、社会的(言材を用いよう、選択しようとする意識)、教育的仲介(言語的・社会的・文化的仲介を支援するもの)という異なる段階の仲介活動が可能となる。

  • 日本語非母語話者に対する縦断的調査をもとに
    莫 冠シン
    2025 年22 巻 p. 217
    発行日: 2025/04/01
    公開日: 2025/04/01
    ジャーナル 認証あり

    人間関係を構築する際に、円滑にコミュニケーションを進行させることは必ずしも決定的な条件とは言えない。コミュニケーション主体は、過去の経験や環境など多様な要素が絡み合って人間関係を捉えている。そのため、コミュニケーション主体が、「人間関係」と「場」をどう認識し、表現するかは、コミュニケーション研究においては重要な課題となる。本研究では、日本語非母語話者を対象に縦断的な調査を行うことにより、接触場面での人間関係を構築する過程におけるコミュニケーション主体の【前提】と「意識」の連動の在り方を解明することを試みた。調査は、2023年4月から11月まで(大学休業期間を除く約半年間)、ベース・インフォーマント1名と相手2名、計3名の協力を得て実施した。協力者には、初対面またはそれに近い状態から月に1回、計6回の会話を行ってもらい、会話終了後に個別にフォローアップ・インタビュー(以下:FUI)を実施した。

    本発表では、日本語非母語話者YのFUIデータと会話感想シートを分析データとして、質的分析を行った。分析の結果、Yの人間関係構築に関する【前提】と「意識」との連動を窺うことができた。Yは人間関係の初期段階において、自分がこれまでの経験や知識により生成された【前提】をもとに会話相手のコミュニケーション行動を理解し、<会話の印象>や<相手に対する印象>を形成しながら<相手との関係>を捉えている。また、人間関係の初期段階で【前提】にずれがあったとしても、コミュニケーションを重ねることで互いの<人間関係に対する捉え方>を把握し、理解し合うことが可能になる。このプロセスを通じて、会話相手との関係性に対する捉え方が変わることもある。

    さらに、今回の調査では、Yは調査者との対話により、これまで明確になっていなかった<人間関係に対する捉え方>の【前提】を見直すことができた。このように、自身の【前提】を振り返ることで、他者との関係において自己の姿が鮮明に浮かび上がり、【前提】の更新を通して、他者とのよりよいコミュニケーションが可能になることにつながることが示唆された。

編集後記
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