待遇コミュニケーション研究
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特別寄稿
大学院留学生を対象としたスピーチスタイルの教育試案
生天目 知美
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ジャーナル 認証あり

2025 年 22 巻 p. 130-145

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抄録

本稿では、所属する研究室コミュニティで丁寧体基調の会話を行うことが多い大学院留学生を対象としたスピーチスタイルの教育実践を報告した。研究室に大学院生や研究生として所属する留学生は、教員だけではなく日本人学生とも丁寧体基調のスピーチスタイルを用いて日常的に会話を行っていることが多い。この背景には普通体を使いこなすための日本語能力が不足しているという理由のみならず、研究室における親密とは言えない人間関係や、自分をどのような人物として他者に認識してほしいかという自己呈示がある。こうした状況を鑑み、本実践では丁寧体基調のスピーチスタイルを保ちながら丁寧さを下げ、親しみを表現する方策(独話的な終助詞や相づち、縮約形の使用)について学習者が明示的に学習する機会を提供することを目的とした。

実践では、1)スピーチスタイルの導入として、基本的なスピーチスタイルの使い分けに関する規範意識の確認のほか、文末や語彙のスタイルの変化によるスピーチスタイルの段階性、スピーチスタイルの選択に関わる諸要素を解説、2)聞き手目当て性を調節する言語表現の1つとして終助詞を取り上げ、「な」「ね」「よ」および「かな」「かね」を紹介し、スピーチスタイルとの組み合わせや独話的発話に使用される「な」を「独り言風発話」として導入、3)相づちのスピーチスタイルによる使い分けや中国語母語話者の注意点、相づちにも感動詞を中心とした聞き手目当て性が低い表出型の「独り言風発話」があることを解説、4) 縮約形が丁寧体とともに使用されることにより、丁寧さを保ちつつ親しみを表現できることを解説、5)まとめとして丁寧体基調の会話に終助詞や相づちを用いた「独り言風発話」や縮約形を使用する会話練習、の順に行なった。こうしたスピーチスタイルの調整方法の学習が、留学生の所属コミュニティにおけるコミュニケーションの気づきや参画に寄与することを目指した。

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