天然有機化合物討論会講演要旨集
Online ISSN : 2433-1856
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休眠型天然物生合成遺伝子の強制的覚醒に基づく新規天然物の創製
恒松 雄太猿渡 隆佳杉山 智啓加藤 広樹野口 博司守屋 央朗渡辺 賢二
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p. Oral35-

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抄録

1. 研究背景

 新しい化学構造、生物活性を有する天然物を獲得することは、学術的にも産業的にも重要である。しかしながら、現在では容易に獲得できる天然物は既に取り尽くされたといっても過言ではない状況にあり、実際に多数の大手製薬企業が天然物をリード化合物とした創薬研究を縮小廃止している。その原因として、新規天然物の獲得には多大な時間と労力が費やされること、獲得効率が悪いこと、生産性が低いなどの理由が挙げられ、これらの問題点を解決した「次世代型の天然物獲得法」が望まれている。

 ところで、次世代シーケンサーによるDNA配列解読技術の革新により、現在では様々な微生物のゲノム配列を短時間、低コストにて解読可能になった。Cyclosporine A、lovastatin などといった数多くの医薬品を輩出してきた糸状菌についても数多くの種のゲノムが解読されてきた1。その結果、たった一種の糸状菌のゲノム中に数十種類もの天然物生合成遺伝子が含まれていることが明らかにされた。ところが、実験室内における一般的な培養条件において、実際に代謝産物として単離、同定される天然物の数はそれよりも遥かに少数である。近年のトランスクリプトーム解析により、これら天然物生合成遺伝子の多くが不活性化状態、すなわち休眠状態であることが示された2。つまり、我々は微生物のもつ天然物生産能力のうち、氷山の一角のみを利用していたに過ぎないのかも知れない。一方で、このような生合成遺伝子を人為的に制御し、発現させることができれば、これまでに発見されてこなかった天然物の獲得が期待できる。本研究では、糸状菌に対して遺伝子操作を施すことにより、本来は休眠状態であった天然物生合成経路を覚醒させることで、新規天然物の獲得を目指した。

2. 黒麹菌Aspergillus nigerにおける休眠型生合成遺伝子の覚醒

i. 休眠型生合成遺伝子のin silico解析

A. nigerは工業的に有機酸の製造に用いられている麹菌の一種であり、既にそのゲノム解読が完了している1。そのゲノム中には33個のポリケタイド合成酵素(PKS)、15個の非リボゾーム性ペプチド合成酵素(NRPS)および9つのPKS-NRPS hybrid型酵素遺伝子(HPN)を有する3。我々は、コンピューター上にてこれら天然物生合成遺伝子クラスターを詳細に解析し、新規天然物生合成を担う遺伝子クラスターを推測した。具体的には、まず機能未知の生合成遺伝子クラスターを抽出し、Basic Local Alignment Search Tool (BLAST)検索等により各構成遺伝子の機能を予測した。これらの情報と、既知天然物の生合成経路の文献情報から、一部の生合成遺伝子クラスターについてはその生合成産物が予測可能であった。一方、我々の研究対象はその生合成産物が予測不可能な生合成遺伝子クラスターであり、本クラスターはこれまでに発見されていない天然物(新規化合物)、あるいは生合成経路が明らかになっていない天然物を生合成する可能性を秘めていた。続いて選抜した数十種の生合成遺伝子クラスターについて、様々な培養条件にて得たmRNAをもとに、半定量RT-PCR法によりその転写量の解析を行った。その結果、い

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© 2013 天然有機化合物討論会電子化委員会
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