天然有機化合物討論会講演要旨集
Online ISSN : 2433-1856
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Gymnocin-Aの全合成研究
坂井 健男松下 真吾浅野 晴日大島 里恵森 巧一森 裕二
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p. Oral45-

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Gymnocin-Aの全合成研究

 Gymnocin-A (1)は、深刻な漁業被害をもたらす赤潮の原因生物である渦鞭毛藻の一種Karenia Mikimotoiから単離構造決定された14環性の海洋ポリ環状エーテル化合物である。マウス白血病細胞P388に対する細胞毒性 (IC50: 1.3 mg/mL)を有するものの、1440Lの培養液からわずか1.5 mgしか単離できないため、更なる生物活性解明に向けて全合成による物質供給は重要である。しかし、現在までに全合成は2003年の佐々木らによる1例のみである[1]。我々は、独自に開発した収束的合成法を用いてgymnocin-A(1)全合成研究を行ったので報告する。

【逆合成戦略とその基盤となる収束的合成法】

 DE環、IJ環を連結部として、後述のオキシラニルアニオン法による収束的合成法を適用すると、ABCフラグメント(2)、FGHフラグメント(3)、KLMNフラグメント(4)の3つに分割できる。さらに、2のBC環、3のGH環、4のLM環をそれぞれ収束的合成法で構築する計画を立て、5–8の各ユニットからの全合成を目指した。この戦略の特徴は、エポキシスルホン6、F環とK環ユニット7が各フラグメント合成の共通原料であるため、効率的に原料供給ができるという点である。

Scheme 1 Retrosynthetic analysis of gymnocin-A (1)

 逆合成戦略の基盤となるのが、オキシラニルアニオンを用いた[X+2+Y]型の収束的合成法である(Scheme 2)[2]。エポキシスルホンから発生させたオキシラニルアニオンIをトリフラートIIに求核置換させてカップリング体IIIとし、環化反応を経て6員環ケトンIVとする。次いで環拡大反応に付してVとし、還元的エーテル化すると新たな連結体VIが得られる。本手法の特徴は、連結部に新たに生成する環サイズを、IVの環拡大反応の回数によって変えられる柔軟性にあり、6-6員環であるIJ環部、6-7員環であるBC, DE, GH, LM環部の合成に適用できる。

Scheme 2 Convergent synthesis method of polycyclic ethers using oxiranyl anions

【ユニット6–8の合成】

Scheme 3. Synthesis of units 6–8

 ユニット6–8は、その構造の類似性に着目して全て2-デオキシ-D-リボースから合成した (Scheme 3)。6は2-デオキシ-D-リボース骨格をそのまま利用して合成した。7と8では、4位OH基に不飽和エステルを導入した後、ラジカル環化にてテトラヒドロピラン環を構築し合成した。このうち7の合成の詳細をScheme 4に示す。2-デオキシ-D-リボースをメチルアセタール化した後、ジオールを保護し、ジチオアセタール9へと変換した。ヘテロマイケル反応の後にジチアンを除去して環化前駆体10とした後、ラジカル環化により11とした。エステルの還元とベンジル保護で12、保護基の掛け替えと酸化でケトン13とした。メチル基をアキシアル側から付加させ14とした後、脱保護の後のワンポット法によるトリフラート合成にて7を得た。

Scheme 4. Synthesis of F/K unit 7

【ABC環フラグメント合成】

 逆合成解析に基づき5と6をオキシラニルアニオン法により連結して15とした後、脱TES化、ブロモケトン化を経て16とした。しかし16は、5員環(A環)上置換基がtrans配置であるため環化せず、17を得ることは出来なかった (Scheme 5

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 Gymnocin-A (1)は、深刻な漁業被害をもたらす赤潮の原因生物である渦鞭毛藻の一種Karenia Mikimotoiから単離構造決定された14環性の海洋ポリ環状エーテル化合物である。マウス白血病細胞P388に対する細胞毒性 (IC50: 1.3 mg/mL)を有するものの、1440Lの培養液からわずか1.5 mgしか単離できないため、更なる生物活性解明に向けて全合成による物質供給は重要である。しかし、現在までに全合成は2003年の佐々木らによる1例のみである[1]。我々は、独自に開発した収束的合成法を用いてgymnocin-A(1)全合成研究を行ったので報告する。

【逆合成戦略とその基盤となる収束的合成法】

 DE環、IJ環を連結部として、後述のオキシラニルアニオン法による収束的合成法を適用すると、ABCフラグメント(2)、FGHフラグメント(3)、KLMNフラグメント(4)の3つに分割できる。さらに、2のBC環、3のGH環、4のLM環をそれぞれ収束的合成法で構築する計画を立て、58各ユニットからの全合成を目指した。この戦略の特徴は、エポキシスルホン6、F環とK環ユニット7が各フラグメント合成の共通原料であるため、効率的に原料供給ができるという点である。

Scheme 1 Retrosynthetic analysis of gymnocin-A (1)

 逆合成戦略の基盤となるのが、オキシラニルアニオンを用いた[X+2+Y]型の収束的合成法である(Scheme 2)[2]。エポキシスルホンから発生させたオキシラニルアニオンIをトリフラートIIに求核置換させてカップリング体IIIとし、環化反応を経て6員環ケトンIVとする。次いで環拡大反応に付してVとし、還元的エーテル化すると新たな連結体VIが得られる。本手法の特徴は、連結部に新たに生成する環サイズを、IVの環拡大反応の回数によって変えられる柔軟性にあり、6-6員環であるIJ環部、6-7員環であるBC, DE, GH, LM環部の合成に適用できる。

Scheme 2 Convergent synthesis method of polycyclic ethers using oxiranyl anions

【ユニット68の合成】

Scheme 3. Synthesis of units 68

 ユニット68は、その構造の類似性に着目して全て2-デオキシ-D-リボースから合成した (Scheme 3)。6は2-デオキシ-D-リボース骨格をそのまま利用して合成した。78では、4位OH基に不飽和エステルを導入した後、ラジカル環化にてテトラヒドロピラン環を構築し合成した。このうち7の合成の詳細をScheme 4に示す。2-デオキシ-D-リボースをメチルアセタール化した後、ジオールを保護し、ジチオアセタール9へと変換した。ヘテロマイケル反応の後にジチアンを除去して環化前駆体10とした後、ラジカル環化により11とした。エステルの還元とベンジル保護で12、保護基の掛け替えと酸化でケトン13とした。メチル基をアキシアル側から付加させ14とした後、脱保護の後のワンポット法によるトリフラート合成にて7を得た。

Scheme 4. Synthesis of F/K unit 7

【ABC環フラグメント合成】

 逆合成解析に基づき56をオキシラニルアニオン法により連結して15とした後、脱TES化、ブロモケトン化を経て16とした。しかし16は、5員環(A環)上置換基がtrans配置であるため環化せず、17を得ることは出来なかった (Scheme 5)。

Scheme 5 Attempted cyclization of bromoketone 16

 上記の問題は、A環の導入をBC環構築のあとに行うことで解決した。すなわち、18と2-デオキシ-D-リボースより合成した19をオキシラニルアニオン法でカップリングさせ20とした後、TES基除去、ブロモケトン化で21とした。これを、DBUで処理すると収率よく環化し22が得られた。環拡大反応でB環を構築後、シリルエノール化と酸化で水酸基を立体選択的に導入して23とし、TBS基の除去に続く還元的エーテル化でC環を構築して24とした。保護、脱保護を繰り返して25としたのち、一級アルコールをトシル化後、ヘテロマイケル、ヨウ素化により26とした。最後にラジカル環化反応でA環を構築して27とした後、エステルの還元、ベンジル化、脱アセトナイド化を経てABCフラグメント28の合成を達成した(Scheme 6)。

Scheme 6 Synthesis of ABC-fragment 28

Scheme 6. Synthesis of ABC-fragment 28

【FGH環モデル合成】

 FGH環・KLMN環フラグメントの連結部であるGH環・LM環部位は、7員環エーテル縮環部にメチル基を有する共通の構造を有している。そこで、まずはFGH環モデル合成を行った (Scheme 7)。トリフラート29とエポキシスルホン6をオキシラニルアニオン法によりカップリングさせ、TMS基の除去、ブロモケトン化をへて30とした。次いで、30の3級アルコールの求核置換反応による環化反応を検討した。その結果NaHを用いた場合に一度は収率よく82%で環化したものの、新しいボトルのNaHを使用したときには収率は14%に低下し、再現性に問題点を残した。しかし、通常困難とされる第3級アルコールの分子内エーテル化が条件次第では有効であることが判明した。環化体31の環拡大反応により32を得た後、酸によりTBS基を除

Scheme 7. FGH-model 34 Synthesis

去しつつメチルアセタール化を試みたが、脱シリレン化との競合が起こったため中程度の収率でしか33は得られなかった。改良の余地を残しているものの、その後の還元的エーテル化は高収率で進行しFGHシステム34の合成を完了した。

【KLMN環フラグメント合成】

 最後に、KLMN環フラグメント合成を行った。78をカップリング反応に付して35とした後、TMS基の除去、ブロモケトン化を行い38とした。次いで、FGH環モデル合成でも懸案であった3級アルコールの環化反応を検討した。残念なことにNaHを用いたときの収率は16%であったが、30の環化で古いNaHを用いたときに収率が良かったことから、塩基をNaOHに変えたところ36の環化反応はきれいに進行し、37が好収率で得られることが判った。この結果は、30の環化においても、NaOHが関与している可能性を示唆している。ついで、環拡大反応ならびに脱TBS化、還元的エーテル化を行ってKLMN骨格を合成して39とした後、ベンジルを3つ全て除去した後、保護基をTBSへと掛け替え、ついで一級アルコール上のTBSのみを位置選択的に除去し、Dess-Martin酸化でアルデヒド40とした。最後にHWE反応でビニルスルホンとしたのち酸化して、KLMNフラグメント6の合成に成功した(Scheme 5)。

Scheme 8. Synthesis of KLMN-fragment 6

 
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