天然有機化合物討論会講演要旨集
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Biselyngbyolide類の合成研究
田辺 由利香佐藤 英祐中島 修弥大久保 哲史末永 聖武
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Biselyngbyolide類の合成研究

Biselyngbyaside (1)は沖縄県産シアノバクテリアLyngbya sp.より当研究室において単離、構造決定された18員環マクロライド配糖体である1)。HeLa S3腫瘍細胞に対して強い増殖阻害活性(IC50 2.5 mM)を示す。さらに破骨細胞の分化を低濃度で抑制することから2)、骨粗しょう症のリード化合物としても期待される。1の類縁体であるbiselyngbyolide A (2) 及びB (3)はそれぞれ徳之島産、石垣島産シアノバクテリアLyngbya sp.より単離、構造決定された3) 4)。2はHeLa S3腫瘍細胞(IC500.039 mM)及びHL60細胞(IC50 0.012 mM)に対して強力な増殖阻害活性を示すととともに、アポトーシス誘導活性を示す。3はHeLa S3腫瘍細胞(IC50 0.028 mM)に対して強力な増殖阻害活性を示す。また1~3は細胞質カルシウムイオン濃度を上昇させる作用を持つことがわかった5)。Biselyngbyolide類の合成経路の確立及び更なる活性試験のための量的供給を目的として合成研究を行い、最近biselyngbyolide Aの初の全合成を達成した。なお、biselyngbyasideの合成研究は、これまでに2例報告されている6) 7)

【逆合成解析】

環化前駆体4及び10はヨウ化ビニル6, 11とスタンナン5とのStilleカップリングにより誘導できると考えた。またヨウ化ビニル6は、文献既知のアルデヒド9を出発物質としてNHK反応を鍵反応として合成することとした。ヨウ化ビニル11はアルデヒド9より不斉アルドール反応とHorner-Emmons反応を用いて合成することとした。Biselyngbyolide類の共通のユニットであるスタンナン5は光学活性なグリシドール誘導体を出発物質とし、ボロン酸を用いた鈴木-宮浦カップリングにより合成する計画を立てた。

【Biselyngbyolide Aの全合成】

市販の光学活性なグリシドール誘導体を出発原料とし、4段階でアルデヒド7に変換した。続いて安藤法8)によるHorner-Emmons反応を用いてZ体の不飽和エステル15のみを選択的に得た。次にDIBAL還元、臭素化により臭化物16へと導いた。この臭化物16に対して鈴木-宮浦カップリング9)の検討を行った。ボロン酸エステルを用いた反応や、種々パラジウム触媒、温度を変えて条件検討した結果、Pd(dba)2を触媒として臭化物16とボロン酸を室温下で反応させることにより、中程度の収率でジエン17が得られた。加熱下Bu3SnHを作用させ、biselyngbyolide類の共通ユニットであるスタンナン5を位置・立体選択的に合成した。

文献既知のアルデヒド910)より、2段階の反応により増炭しアルキン18へと変換した。アルキン18に対するヒドロジルコニル化とヨウ素を用いたハロゲン金属交換により、ヨウ化ビニル8を合成した。また1,3-プロパンジオールより文献既知法に従い調製したアリルアルコール1911)を出発原料とし、水酸基のPMB保護、四酸化オスミウムによるアルケンの開裂を経てアルデヒド20を合成した。得られたアルデヒド20に対して不斉アリルボレーション11)を行い、アルコール21を単一のジアステレオマーで得た。続いてDDQによる酸化的アセタール形成を行った。6員環アセタールの立体化学はNOE実験によっ

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Biselyngbyaside (1)は沖縄県産シアノバクテリアLyngbya sp.より当研究室において単離、構造決定された18員環マクロライド配糖体である1)。HeLa S3腫瘍細胞に対して強い増殖阻害活性(IC50 2.5 mM)を示す。さらに破骨細胞の分化を低濃度で抑制することから2)、骨粗しょう症のリード化合物としても期待される。1の類縁体であるbiselyngbyolide A (2) 及びB (3)はそれぞれ徳之島産、石垣島産シアノバクテリアLyngbya sp.より単離、構造決定された3) 4)2はHeLa S3腫瘍細胞(IC500.039 mM)及びHL60細胞(IC50 0.012 mM)に対して強力な増殖阻害活性を示すととともに、アポトーシス誘導活性を示す。3はHeLa S3腫瘍細胞(IC50 0.028 mM)に対して強力な増殖阻害活性を示す。また13は細胞質カルシウムイオン濃度を上昇させる作用を持つことがわかった5)。Biselyngbyolide類の合成経路の確立及び更なる活性試験のための量的供給を目的として合成研究を行い、最近biselyngbyolide Aの初の全合成を達成した。なお、biselyngbyasideの合成研究は、これまでに2例報告されている6) 7)

【逆合成解析】

環化前駆体4及び10はヨウ化ビニル6, 11とスタンナン5とのStilleカップリングにより誘導できると考えた。またヨウ化ビニル6は、文献既知のアルデヒド9を出発物質としてNHK反応を鍵反応として合成することとした。ヨウ化ビニル11はアルデヒド9より不斉アルドール反応とHorner-Emmons反応を用いて合成することとした。Biselyngbyolide類の共通のユニットであるスタンナン5は光学活性なグリシドール誘導体を出発物質とし、ボロン酸を用いた鈴木-宮浦カップリングにより合成する計画を立てた。

【Biselyngbyolide Aの全合成】

市販の光学活性なグリシドール誘導体を出発原料とし、4段階でアルデヒド7に変換した。続いて安藤法8)によるHorner-Emmons反応を用いてZ体の不飽和エステル15のみを選択的に得た。次にDIBAL還元、臭素化により臭化物16へと導いた。この臭化物16に対して鈴木-宮浦カップリング9)の検討を行った。ボロン酸エステルを用いた反応や、種々パラジウム触媒、温度を変えて条件検討した結果、Pd(dba)2を触媒として臭化物16とボロン酸を室温下で反応させることにより、中程度の収率でジエン17が得られた。加熱下Bu3SnHを作用させ、biselyngbyolide類の共通ユニットであるスタンナン5を位置・立体選択的に合成した。

文献既知のアルデヒド910)より、2段階の反応により増炭しアルキン18へと変換した。アルキン18に対するヒドロジルコニル化とヨウ素を用いたハロゲン金属交換により、ヨウ化ビニル8を合成した。また1,3-プロパンジオールより文献既知法に従い調製したアリルアルコール1911)を出発原料とし、水酸基のPMB保護、四酸化オスミウムによるアルケンの開裂を経てアルデヒド20を合成した。得られたアルデヒド20に対して不斉アリルボレーション11)を行い、アルコール21を単一のジアステレオマーで得た。続いてDDQによる酸化的アセタール形成を行った。6員環アセタールの立体化学はNOE実験によって確認した。続いて四酸化オスミウムによるアルケンの開裂によりアルデヒド22へ誘導した。次にアルデヒド22とヨウ化ビニル8を用いてNHK反応を行った。得られたアルコール23の絶対立体配置はMTPAエステルへと誘導し、改良Mosher法12)により決定した。望みのアルコール23とそのエピマーepi-23が5:3の割合で得られたが、それぞれ分離し、epi-23はDess-Martin酸化とCBS還元の2段階で高立体選択的に望みのアルコール23へと変換した。得られたアルコール23をMeer-Wein試薬によりメチル化し、LiDBBを用いてPMP基を残したままBn基のみを選択的に脱保護した13)。続いてTEMPO酸化、高井オレフィン化の2段階を経てE体選択的にヨウ化ビニル6を合成した。

スタンナン5とヨウ化ビニル6を用いてStilleカップリングを行った。副生成物としてヨウ化ビニルの還元体が得られたため、カップリング体25の収率は中程度にとどまった。カップリング体25に対してTBAFを作用させ一級TBDPS基を選択的に脱保護し、Dess-Martin酸化、Pinick酸化の2段階でカルボン酸26へと誘導した。加熱下TBAFを作用させて2級TBDPS基を脱保護し、椎名法14)によるマクロラクトン化を行った。最後に80%酢酸条件でPMPアセタールの除去を行うことでbiselyngbyolide A (2)の全合成を達成した。合成品の各種NMRデータは天然物と良い一致を示した。

【Biselyngbyolide Bの合成研究】

文献既知法に従い調製したアルデヒド910)を出発原料とし、Wittig反応、DIBAL還元、Dess-Martin酸化の3段階を経てアルデヒド29を合成した。続いて立体選択的なアルドール反応15)を用いて、目的のアルコール30を単一のジアステレオマーで得た。脱硫、メチル化、LiBH4によるキラル補助基の除去とDess-Martin酸化を経てアルデヒド12とした。アルデヒド12に対してHorner-Emmons反応を行い、続くCBS還元により高立体選択的に望みのアルコール36へと変換した。得られたアルコール34の絶対立体配置は改良Mosher法により決定した。水酸基をTBS基で保護した後、LiDBBを用いてBn基を選択的に脱保護した。続いてDess-Martin酸化、高井オレフィン化の2段階を経てE体選択的にヨウ化ビニル11を合成した。

ヨウ化ビニル11とスタンナン5をStilleカップリングより連結させた。添加剤として塩化リチウムを加えることで収率の向上が見られた。カップリング体36に対してDDQを用いてPMB基の除去を試みたが基質が壊れてしまった。そこでリチウムを用いたBirch還元によりPMB基を除去した。続いてDess-Martin酸化とPinnick酸化により、カルボン酸37へと誘導した。現在最終段階のシリル保護基の除去及びマクロラクトン化の検討を行っている。

【まとめ】

我々は、biselyngbyolide A (2)の初の全合成を達成した。今後は合成品での活性試験を行う予定である。Biselyngbyolide B (3)についても最終段階の検討を行い、初の全合成を達成する予定である。

【参考文献】

1) Teruya, T.; Sasaki, H.; Kitamura, K.; Nakamura, T.; Suenaga, K. Org. Lett. 2009, 11, 2421-2424.

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3) 渡邊絢音、森田真布、大野修、照屋俊明、末永聖武、日本化学会第93回春季年会講演番号4D1-30

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14) Isamu, S.; Minako, H.; Yusuke, Y.; Hiromi, O.; Takahisa, S.; Yuji, T.; Ryoutarou, I. Chem. Eur. J. 2005, 11, 6601-6608.

15) Liang, Q.; Zhang, J.; Quan, W.; Sun, Y.; She, X.; Pan, X. J. Org. Chem. 2007, 72, 2694-2697.

 
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