天然有機化合物討論会講演要旨集
Online ISSN : 2433-1856
55
会議情報

メディシナルフラワー研究:椿花 (Camellia japonica, 花部) および蓮花 (Nelumbo nucifera, 花部) のメラニン生成抑制成分
中村 誠宏松田 久司藤本 勝好田邉 元三中嶋 聡一松本 崇宏太田 智絵小川 慶子村岡 修吉川 雅之
著者情報
会議録・要旨集 フリー HTML

p. PosterP-6-

詳細
メディシナルフラワー研究:椿花 (Camellia japonica, 花部) および蓮花 (Nelumbo nucifera, 花部) のメラニン生成抑制成分

1.序論

 花は古くから観賞用のほかに食用や薬用にも供されてきた.中国伝統医学 (中医学) や漢方医学では,紅花,槐花,菊花,金銀花などの花部由来の生薬が処方中に配剤されている.西洋ハーブとしても,マリーゴールド,カモミール,デージー,エバーラスティングなどの薬用花が数多く知られている.欧州においては,アロマセラピーなどにおいて花の精油がしばしば用いられてきた.また,1930年頃にイギリス人医師のエドワード バッチによって花エキスを用いた“フラワーレメディ”の考え方が提唱され,今日でも信奉する人も多い.しかし,花の成分レベルでの薬効解明研究はまだ十分ではない.そこで著者は,伝統医学で用いられる重要な薬用花である椿花 (Camellia japonica, 花部) および蓮花 (Nelumbo nucifera, 花部) の生体機能性成分の探索を行った.

2. 中国産椿花 (Camellia japonica, 花部) の新規サポニン成分とメラニン生成抑制作用

 ツバキ科植物ツバキ (C. japonica) は日本を原産とする常緑広葉樹の一種で, 台湾, 朝鮮, 中国,インドネシア等アジア各地に広く分布する. その花部である椿花は中国では「山茶花」と記載され,古来より抗炎症薬,健胃薬,止血薬および打撲傷の治療 (外用薬) 等に用いられてきた.我々はこれまでに,日本産椿花からノルオレアナン型トリテルペンサポニン camellioside A–D を得て,胃粘膜保護および血小板凝集作用を有することを明らかにした.1,2 今回,椿花の生体機能性成分の探索研究の一環として,中国産 (雲南省) 椿花の抽出エキスの生物活性評価を行ったところ,マウスのメラノサイト由来 B16 melanoma 4A5 へのテオフィリン刺激によるメラニン生成抑制作用を示すことを見出したことから,含有成分の探索研究に着手した.すなわち,中国産椿花のメタノール抽出エキスを,酢酸エチル,n-ブタノールおよび水にて分配抽出し,n-ブタノール移行部を各種カラムクロマトグラフィーおよび HPLC を用いて繰り返し分離精製した.その結果,8 種の新規サポニン sanchakasaponin A–H (1–8) および 8 種の既知サポニン 9−16を単離した (図 1).得られたサポニン成分のメラニン生成抑制作用について検討を行ったところ,サポニン 2–6, 8, 10, 12−14, 16 は強い抑制作用 [IC50: 1.7−4.7 mM] を示すことが明らかとなり,その作用は positive controlであるアルブチン [IC50: 174 mM] よりも強いことが明らかとなった.一方,サポニン 3–6, 8, 10, 16 にはメラノーマ細胞に対する細胞毒性 [10 mM による細胞増殖抑制率: 78.7–88.3%] が認められた.以上の結果から,16位,21位および22位に結合したアシル基の存在は,メラニンの生成抑制や細胞毒性において重要であることが示された.3,4

図 1. 中国産椿花の新規サポニン成分

3. 韓国産椿花 (Camellia japonica, 花部) の新規サポニン成分とメラニン生成抑制および繊維芽細胞増殖促進作用

 中国産椿花の成分探索と同様の方法を用い,韓国産 (済州島) 椿花のサポニン成分の探索を行った.その結果,2 種の既知サポニン [camellioside A (17), D (19)] とともに2 種の新規サポニン camellioside E

(View PDFfor the rest of the abstract.)

1.序論

 花は古くから観賞用のほかに食用や薬用にも供されてきた.中国伝統医学 (中医学) や漢方医学では,紅花,槐花,菊花,金銀花などの花部由来の生薬が処方中に配剤されている.西洋ハーブとしても,マリーゴールド,カモミール,デージー,エバーラスティングなどの薬用花が数多く知られている.欧州においては,アロマセラピーなどにおいて花の精油がしばしば用いられてきた.また,1930年頃にイギリス人医師のエドワード バッチによって花エキスを用いた“フラワーレメディ”の考え方が提唱され,今日でも信奉する人も多い.しかし,花の成分レベルでの薬効解明研究はまだ十分ではない.そこで著者は,伝統医学で用いられる重要な薬用花である椿花 (Camellia japonica, 花部) および蓮花 (Nelumbo nucifera, 花部) の生体機能性成分の探索を行った.

2. 中国産椿花 (Camellia japonica, 花部) の新規サポニン成分とメラニン生成抑制作用

 ツバキ科植物ツバキ (C. japonica) は日本を原産とする常緑広葉樹の一種で, 台湾, 朝鮮, 中国,インドネシア等アジア各地に広く分布する. その花部である椿花は中国では「山茶花」と記載され,古来より抗炎症薬,健胃薬,止血薬および打撲傷の治療 (外用薬) 等に用いられてきた.我々はこれまでに,日本産椿花からノルオレアナン型トリテルペンサポニン camellioside A–D を得て,胃粘膜保護および血小板凝集作用を有することを明らかにした.1,2 今回,椿花の生体機能性成分の探索研究の一環として,中国産 (雲南省) 椿花の抽出エキスの生物活性評価を行ったところ,マウスのメラノサイト由来 B16 melanoma 4A5 へのテオフィリン刺激によるメラニン生成抑制作用を示すことを見出したことから,含有成分の探索研究に着手した.すなわち,中国産椿花のメタノール抽出エキスを,酢酸エチル,n-ブタノールおよび水にて分配抽出し,n-ブタノール移行部を各種カラムクロマトグラフィーおよび HPLC を用いて繰り返し分離精製した.その結果,8 種の新規サポニン sanchakasaponin A–H (18) および 8 種の既知サポニン 916を単離した (図 1).得られたサポニン成分のメラニン生成抑制作用について検討を行ったところ,サポニン 26, 8, 10, 1214, 16 は強い抑制作用 [IC50: 1.7−4.7 mM] を示すことが明らかとなり,その作用は positive controlであるアルブチン [IC50: 174 mM] よりも強いことが明らかとなった.一方,サポニン 36, 8, 10, 16 にはメラノーマ細胞に対する細胞毒性 [10 mM による細胞増殖抑制率: 78.7–88.3%] が認められた.以上の結果から,16位,21位および22位に結合したアシル基の存在は,メラニンの生成抑制や細胞毒性において重要であることが示された.3,4

1. 中国産椿花の新規サポニン成分

3. 韓国産椿花 (Camellia japonica, 花部) の新規サポニン成分とメラニン生成抑制および繊維芽細胞増殖促進作用

 中国産椿花の成分探索と同様の方法を用い,韓国産 (済州島) 椿花のサポニン成分の探索を行った.その結果,2 種の既知サポニン [camellioside A (17), D (19)] とともに2 種の新規サポニン camellioside E (20), F (21) を単離した (図 2).また,各地域から得られたサポニン成分の比較を行ったところ,中国産 (雲南省) 椿花の含有サポニン成分 (sanchakasaponin 類) は,韓国産 (済州島) および日本産 (京都,長崎, 東京) 椿花の含有サポニン成分 (camellioside 類)1,2 とは顕著に異なっており,ケモタキソノミーの観点から興味深い結果となった.次に,韓国産および日本産椿花から得られた camellioside 類のメラニン生成抑制活性について検討を行ったところ,camellioside A (17), B (18) および F (21) に有意な抑制作用 [20 mM によるメラニン生成抑制率: 17: 74.9%, 18: 95.0%, 21: 91.6%] を見出した,また,18 はメラノーマ細胞に対する細胞毒性 [20 mM による細胞増殖抑制率: 49%] を示すにも関わらず,繊維芽細胞増殖促進作用 [20 mM による細胞増殖増加率: 32%] が認められた.この細胞選択性は,皮膚疾患の治療薬の開発において重要であると考えられる.5

2. 韓国 (済州島) 産椿花の新規サポニン成分

4. 蓮花 (Nelumbo nucifera, 花部) アルカロイド成分のメラニン生成抑制作用

 ハス (N. nucifera) はハス科に分類されるインド,中国原産の大型多年生水生草本である.根茎はレンコンとして食用にされる他,その節部は止血薬として用いられる.また,その花部はベトナムなど東南アジア地域で健康茶などの飲料素材として広く利用されている.今回,我々はタイ産 (Khon Kaen province) 蓮花 (N. nucifera, 花部) 抽出エキスに椿花抽出エキスと同様にメラニン生成抑制作用を見出したことから,含有成分の探索研究に着手した.タイ産蓮花抽出エキスを,酢酸エチル,n-ブタノールおよび水にて溶媒分配し,活性の集約していた酢酸エチル移行部をそれぞれ各種カラムクロマトグラフィーおよび HPLC を用いて繰り返し分離精製した.その結果,6 種のアルカロイド [nuciferine (23), N-nornuciferine (25), N-methylasimilobine (26), (–)-lirinidine (28, 5-demethylnuciferine), lysicamine (31), pronuciferine (33)] を単離した.また,蓮花の成分探索と同様の方法を用い,蓮葉 (N. nucifera, 葉部) の成分探索を行った.その結果,蓮花から得られた 6 種のアルカロイド成分に加え,1 種の新規アルカロイド N-methylasimilobine N-oxide (22) および 6 種の既知アルカロイド nuciferine N-oxide (24), N-nornuciferine (25), asimilobine (27), dehydronuciferine (29), 2-hydroxy-1-methoxy-6a,7-dehydroaporphine (30) を単離した.得られた成分のメラニン生成抑制作用の検討を行ったところ,N 位にメチル基を有するアポルフィン型アルカロイド 23 (IC50値 = 15.8 mM), 26 (14.5 mM), 28 (19.3 mM), 30 (13.3 mM) が有意な抑制作用を示すことが明らかとなった.一方,24(ca. 43 mM),25(62.9 mM) は弱い活性しか示さず,27 (>100 mM) においてはほとんど活性が認められなかった.このことから,アポルフィン型アルカロイドにおいて,N 位のメチル基の存在は活性の発現に重要であることが明らかとなった.6

3. 蓮花および蓮葉のアルカロイド成分とメラニン生成抑制作用

 次に合成イソキノリンアルカロイド 36a, 36b, 38 および 1,2,3,4-tetrahydroisoquinoline (39), 2-methyl-1,2,3,4-tetrahydroisoquinoline (40) を用い,メラニン生成抑制作用の検討を行った.合成アルカロイド 36a, 36bは2-(bromophenyl)-N-(2-phenylethyl)acetamide あるいは 2-(bromophenyl)-N-[2-(2-

methoxyphenyl)ethyl]acetamide を出発原料に用い,ベンジルイソキノリン中間体 35a, 35bを経て,それぞれ 5 行程,通算収率 26%, 30%で簡便に合成することができた.また,アルカロイド38 は,N-(2-phenylethyl)benzeneacetamide (37) から4 行程, 通算収率 79% で合成した (図 4).

4. イソキノリン型アルカロイド 36a, 36b, 38 の合成

 合成アルカロイド 36a (IC50値 = 5.9 mM) および 38 (5.0 mM) は,強いメラニン抑制活性を示すことが明らかとなった.また,2 位にメトキシ基を有する 36b(2.0 mM) は,36a および 38 に比べて強い抑制活性を示すことが分かった. 一方,39 および 40においては活性が認められなかった.これらの活性比較から,ベンジルイソキノリンおよびアポルフィン骨格が活性の発現において必須であることやアポルフィン骨格の 2 位の酸素官能基の存在は活性を高めることが明らかとなった.

 また,nuciferine (23) および N-methylasimilobine (26) がメラニン生成に関与する主要な酵素であるチロシナーゼのmRNA発現を 3−30 mM の濃度で抑制することが分かった.さらに,26 がチロシナーゼおよびメラニン生成関連酵素である TRP-1 のmRNA発現を 3−30 mM の濃度で抑制することや23 がTRP-2 のmRNA発現を 10−30 mM の濃度で抑制することが明らかとなった.

5. まとめ

 今回,メディシナルフラワーの一つである椿花および蓮花から得られたオレアナン型トリテルペンサポニンやベンジルイソキノリンアルカロイド成分が有意なメラニン生成抑制作用を示すことを明らかにするとともに構造と活性に関する知見を得ることができた.

文献

1) Chem. Pharm. Bull., 55, 606–612 (2007). 2) Heterocycles, 55, 1653–1657 (2001). 3) Chem. Pharm. Bull., 60, 1188–1194 (2012). 4) Chem. Pharm. Bull., 60, 752–758 (2012). 5) J. Nat. Prod., 75, 1425—1430 (2012). 6) Bioorg. Med. Chem., 60, 779–787 (2013).

 
© 2013 天然有機化合物討論会電子化委員会
feedback
Top